月を詠んだ和歌/百人一首68/夜半の月/恋しい月/心にもあらで~


日本の有名な歌集「百人一首」に収められている和歌の中から、「月」を詠んでいる和歌をご紹介いたします。

百人一首/第六十八番歌

第六十八番歌。

百人一首の中で「夜半の月」が詠まれている二首のうちの一首です。

作者は三条院(976~1017年)、

第六十七代の天皇。

36才で即位しましたが、僅か5年後の1016年に譲位されています。

その訳は、目の病気、時の権力者であった藤原道長の圧力などによるものだそうです。

譲位後に出家して間もなく崩御されました。

この歌は、天皇の位を譲位する直前に詠まれたものと推測されています。

【 恋しかるべき 】

「恋しかるべき」…「恋」という文字を見て、これは ”恋歌なのかな…?” と思ってしまうかもしれません。でも、この「恋しかるべき」の「恋し」は恋愛の「恋」ではなくて、「懐かしい」という意味の「恋し」です。

ですから、この歌の英訳例を探ってみても、英訳に”Love” の文字は使われていません。

【英訳/例】

〔英訳の引用〕

:上記の英訳は ”小倉百人一首英訳” より引用させていただきました。

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http://www3.to/kyomi/database/h1/

「夜半の月」 this midnaight moon

~ close to me like an only freend of mine

I’m sure I would feel ~

「きっと私は感じることでしょう」

真夜中の月が、唯一の友達なんですね・・孤独そのものです。

もしも、知り合いにこのような人がいたら、直ぐに行って、話し相手になってあげたいと思いませんか?

でも、そういう友人も助けてくれる人も、いなかったようです。

いろいろな解説書には、

作者の心情を表す言葉として、

「孤独」「憂鬱」「絶望」「悲嘆」「無念」などの語句が並んでいます。

ちくま文庫の「百人一首/2010年 第15刷」には(以下、引用)

(引用、終わり)

と解説されていました。

「こころ/心」:私が使っている古語辞典には、約3頁にも渡って心を使った様々な慣用句が説明されています。

そのなかに「心にもあらず」が明記されていました。

・この歌の冒頭「心にもあらで」の「で」は、打消しの助動詞「ず」の連用形+接続助詞「て」→「ずて」の変形と思われます。なので、古語辞典の「心にもあらず」の意味を以下に引用いたします。

① そうするつもりではない。思わず知らず。無意識に。

② 気が進まない。思いがけない。不本意である

〔引用元/角川 必携古語辞典 全訳版:平成9年初版、(発行)角川書店〕

この歌の「心にもあらで」は、②の意味で理解してみましょう。

すると、

上の句の「心にもあらで 憂き世に ながらえば」は、

というように現代語訳することができます。

この歌は、自身の人生の辛さを嘆きつつ、

と、自分に言い聞かせているのです。

・・・・・

辛いですね。

いろいろな解説書によると、この歌を詠んでから間もなく天皇の地位を譲位し、その後は直ぐに出家・・・翌年には崩御されています。

ということを思うと、この歌を詠んだその辛さは、この歌以上の、周囲の者には計り知れない辛さと悲しみであったのだと想像されます。

画像例を載せました/作者の心情を想像してみましょう

〔読み〕

こころにも あらでうきよに ながらへば

こひしかるべき よはのつきかな

【 夜半の月/例 】

〔画像はイメージです/出典:photoAC〕

生きていると、いろいろな辛いことが起こります。

そのとき、

その辛さにじっと耐えながら、

ふと見た夕焼け空のきれいな橙色とか、

ふらりと入った映画館で観た映画に涙してしまうとか、

独りぼっちの食事に寂しさを感じるとか・・・

そういうものが後々になって懐かしい思い出になるかもしれない。

そう思って、今のこの辛さを乗り越えていこう。

これは、人生を生きるひとつの処方箋なのかもしれませんね。

読んでください、ありがとうございます。

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