(画像はイメージです/出典:photoAC)
磨けば光る販売力
販売力を磨くことは、商売をする者にとって永遠の課題だと思います。ただ、一口に販売力と言っても「商品力」「環境力」「宣伝力」など多岐に渡りますので、ここでは店頭の「人力」に絞ります。
この10年の間にネット販売は特別なものではなくなり、さらに店頭においてはセルフレジが増え続けており、「人力」について語るのは今更必要ないと思われる方は多いと思います。
でも、見渡してみれば、専門知識を必要とする商品を中心に「人力」を捨て去ることはできない現実は沢山あります。そのような店では、販売力は以下の集合体となっていて、「人力」の売上への影響は多大なものです。
【マズロー五段階欲求説を活用して販売力を磨く】
今回は、あの有名な「マズローの五段階欲求説」を取り上げます。
〔自己実現理論とも呼ばれていますが、世間の多くの解説では「マズローの五段階欲求説」が多々目につきますので、この呼び方で取り上げました〕
このセオリー、心理学で学ぶ以外では、マーケティングを初めとして、コミュニケーションに関わる仕事に携わる方なら一度は耳にし、そして目にしたことがあると思います。介護士の資格取得講座のテキストにも、人の性質を知る基礎知識として学習項目に入っております。そして、ネット検索では数多くの方が解説されている人口に膾炙したセオリーだと思います。
ただ、いろいろ解説されているセオリーではあるのですが、日常や仕事の中での具体的な活用方法にはなかなか出会いません。
セオリーは、日常生活や仕事の中で具体的に活かすことがなければ、絵に描いた餅です。知っても「ふ~ん、そうなんだ」と思うだけ、又は他者に解説する評論家で終わってしまいます。
なので、マズローの五段階欲求説を「販売率を上げる」手段として、実はすでに営業や販売スタッフは我知らず活用していることを解き明かし、そして今日からは意識してこのセオリーを活用し、さらに「販売力を磨く」ことができるように解説したいと思います。
ここに記す事例は、全て私が現場で実践し、セオリーを意識しながら検証したものです。まずは、マズローの五段階欲求説の復習から入りましょう。
1.復習:マズローの五段階欲求説
アブラハム・マズロー(1908年生~1970年没:アメリカの心理学者)が、人間の欲求は五つの階層構造になっていて、下位の欲求が満たされてから、その上位の欲求が発現すると考えました。多くの解説が下のような図でされています。
ただ、いろいろな解説を読むと、この説には修正意見があります。それらの主旨は「各々の欲求は必ずしも下位の欲求が満たされていなくても発現する」とされています。実は、私も販売現場での検証により、そう思っているひとりです。ただ、人の基本的欲求がこれら五つに集約されることに変わりはありません。なので、人は ”これらの欲求を満たそうとして日々生きている” という理解でかまわないと、私は思っています。
2.活用:マズローの五段階欲求説
販売の仕事で、接客しながらお客様に購買意欲を目覚めさせ、そして購買意欲を高めていくようにもっていこうとする時には、マズローが説く「安全安心欲求」「帰属/社会的欲求」「承認欲求」を活用することが近道です。
以下に、私が現場で意識してお客様の購買意欲を引き出し、そして高めるために活用する方法を、その頻度が多い順に解説いたします。
【安全安心欲求を満たす時】
お客様が求める「安全安心」とは何でしょうか。
販売する商品の安全性? ・・・それは、あたりまえのことではないですか?
お客様が無意識のうちに求めている「安全安心」、実はこんなところに見え隠れします。
これ、私がよく使うセリフです。
「お客様、買わなくていいですよ。買わなくていいから、見ていって下さい」
この一言が、どのように影響するかといいますと・・・、
⇒ 買わなくていい、財布からお金は減らない、だから安心だ。
⇒ 買わなくていいなら、買わされるという心配がない。だから安全安心だ。
⇒ 買わなくていいなら、上手く使えるかどうか迷わなくていい。だから安心だ。
⇒ 買わなくていいなら、家族に無駄使いと云われる心配はない。だから安心だ。
・・・という安全安心をお客様の心に無意識のうちに植え付けます。
なので、お客様は、購買時のいろいろな不安から解放されて、心が緩み、スタッフの説明を聴く耳が開きます。だから、商品情報をきちんと聴くことができます。
スタッフからみれば、お客様とのコミュニケーションはつながり、お客様はきちんと聴いてくれるわけですから、自ずから販売機会は増えるのです。
【承認欲求を満たす時】
お客様 「高いわ」
スタッフ「そうですよね。実は、私も、最初は、そう思いました」
お客様 「でしょう。よかった、あなたもそう思ったのね」
⇒ たとえ「高い」と否定的なご意見を頂いても、すぐに反論をしないことがとても大切です。
そして、一旦は、お客様のご意見を承認しましょう。するとお客様は、自分と同じことを思ってくれることに安心します。自分の価値基準が間違っていないと安心をするのです。
⇒ このように承認欲求を満たされたお客様は、無意識のうちにもっと承認してくれるかもしれないと思い、その場に留まります。スタッフからみれば、お客様とのコミュニケーションが繋がっていきます。
・・・この会話は、次のように続けていきます。「でも」「しかし」などの否定語は使わずに「ただ」とか「ただですね」を使って、商品のメリットを伝えます。
スタッフ「ただ、お客様。実際に使ってみたら、とっても便利で、今じゃあ家族で取り合い。今度二つ目を買おうと思っているんです」
お客様 「ほんと? うっそおー」
スタッフ「ほんとうですよ。なぜならですね~」
⇒ お客様は、耳を傾けて聴いてくれます。なので、販売機会が増えます。
【帰属/社会的欲求を満たす時】
これ、分かりにくいかもしれません。何に帰属したいのか、社会的欲求とはなんなのか? 具体的ではないからです。なので、こんな事例で説明いたします。
〔例〕例えば、家庭用精米機の販売で。
スタッフ「お客様、本当に今のままでいいんですか? 美食を追求されるお客様は、ご家庭で精米していらっしゃる方、沢山いらっしゃいますよ。ご家庭に精米機をおいて炊飯の度に精米すること、美食家を追求されるならお勧めですよ」
〔例〕例えば、ミキサーの販売で。
スタッフ「お客様、これで毎日スムージーをいただいて、食生活への安全安心、取り戻して下さい。今日から健康生活の仲間入りですね」
⇒ ひとつめの例は、”美食家の仲間入り(帰属する)できますよ” という誘い、ふたつの例は、”健康生活を送る人たちの仲間入り(帰属する)できますよ” という誘いです。これでコミュニケーションを繋ぎ、お客様の帰属意識を高めていくことで、販売機会が増えていきます。
⇒ この欲求については、他に例えば、
著名人を引き合いに出して「あの〇〇さんも使っているようですよ」とか、
TV雑誌に記事として掲載された場合には「□□□に掲載されて、今すごく流行っているんですよ、お客様も流行に乗り遅れないようにして下ださいね」というような言い方をする場合もあります。
それぞれ、自分も著名人の仲間入り、自分も流行に乗っている・・という帰属意識を持つことで、その欲求が満たされます。もちろん、本人は無意識です。
「クリスマスプレゼント、もう選びましたか?」というようなコピーがあれば、これはあなたもクリスマスプレゼントを贈る人になりましょう・・・世間の流れに乗り遅れないようにしましょうね、あなたもクリスマスプレゼントを贈る人になって世間と同じように過ごしましょう(帰属しましょう)ということが伝わり、結果、「早く買わないと」と思わせるわけです。
この欲求を活用する場合は、お客様を何に帰属させれば、お客様は嬉しく思うか?ということを探りながらコミュニケーションをつないでいきます。
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このように、マズローの五段階欲求説は、お客様の「安全安心欲求」「帰属/社会的欲求」「承認欲求」を活用することによって販売力を磨くことができる、とても有益なセオリーなのです。