月を詠んだ和歌/百人一首81/有明の月/夏の到来/ほととぎす鳴きつる


日本の有名な歌集「百人一首」に収められている和歌の中から、「月」を詠んでいる和歌をご紹介いたします。

百人一首/第八十一番歌

第八十一番歌です。

百人一首の中で「有明の月」が詠まれている三首のうちの一首です。

事前の知識として「ほととぎす」が語っている意味を知っておきましょう。

「ほととぎす」は初夏を知らせる鳥として、その鳴き声が当時の人々の間では心待ちにされたそうです。その鳴き声を耳にすれば「ああ…夏が来たんだ」と感じるわけです。

(以下、古語辞典からの引用です)

「ほととぎす」

・渡り鳥の名。初夏に夜昼ともに鳴く。初夏を知らせる鳥として人々に心待ちにされた。懐古・恋慕の情を起こさせる鳥とされ、また冥土に通う鳥ともいい「死出の田長(しでのたおさ)」の異称がある。(以上、引用終わり)

〔引用元/角川 必携古語辞典 全訳版:平成 9年11月初版〕

(画像はイメージです:ほととぎす/出典 photoAC)

この歌には、

一日のなかでも一番静寂な明け方という空間を、「ほととぎすの一瞬の鳴き声」「明け方の空に浮かんでいる有明の月」という二つの自然の営みを使って、その一瞬の趣を切り取った映像的な出来栄えの良さを感じます。

言い換えれば、

耳に響いた「聴覚」と、目に映った「視覚」との、二つの五感を持ち込むことにより、言葉から想像するイマジネーションの世界を、より鮮明にしているといえます。

画像例を載せました。情景を想像してみましょう

〔読み〕

ほととぎす なきつるかたを ながむれば

ただありあけの つきぞのこれる

有明の月/例 】

(画僧はイメージです/出典:photoAC)

【有明の月】

(以下、古語辞典より引用)

月が空に残ったまま、夜が明けること。また、その時分。また、朝まで残る月。必ずしも明け方だけをさすとは限らず、陰暦十六日以降の夜更けに出て、翌朝まで残る月をいうこともある。(以上、引用終わり)

〔引用に使った古語辞典/角川 必携古語辞典 全訳版:平成 9年11月初版〕

(画像はイメージ、例です/出典:photoAC)

ほととぎす~/意訳してみました

東の空が・・明るくなってきた。

辺りは、朝の静寂に包まれている。

・・・・・

おやっ? あの鳴き声は?

おっ! また鳴いた! 

あの鳴き声は、ほととぎすだ!

夏が来たんだ!

何処にいるんだろう、ほととぎすは・・

あっちだ、西の方だ。

・・・・・

おかしいなぁ….

ほととぎすの、鳴き声はしたのに、

ほととぎすの、姿は見えないぞ。

・・・・・

明るくなった西の空には、

お月様が何事もなかったかのように、

落ち着いた姿で浮かんでいる。

ああ、有明の月だ。

・・・・・

空には、有明の月が残っている。

もう、鳴き声はしない。

そらには、ただ、ひとつ・・・

有明の月が浮かんでいる・・

ただ、それだけだ。

そして、さらに ….

さらに、想像力豊かな人にとっては、

「ほととぎす=夏の到来」「有明の月=明け方=一日のうちで一番気温が下がる頃」という情報によって、初夏の清々しい朝の空気の触感を感じることができるかもしれません。

だとしたら・・・

この歌は、

言葉によって、五感のうちの三感に訴求している歌ということになります。

このような、鑑賞する人に意識させず感覚に訴求している歌はそうそうありません。

(「初夏の清々しい朝の空気」を解説している資料は、おそらく無いと思います。私が感じたままを表現しました。そこに正解とか不正解とかいう物差しはありません。※なので、この部分については、学校の試験の解答には加えない方がよいでしょう。)

古典における詩歌の鑑賞は、言葉そのものがハードルになって、頓挫してしまう場合が多々あります。

でも、この歌は、ほぼ現代語に通じているので、分かりやすい歌だと思います。

<鑑賞の要点>

「ほととぎす」と「有明の月」が意味するところを知ることです。

(ほととぎす=夏の到来、有明の月=朝)

「鳴きつる」の「つる」は完了の助動詞なので、鳴き声の方へ顔を向けた時には、鳴き声はもう止んでいたという理解をすることです。

つまり、有明の月を認識したときには「静寂」であったということが分かります。

鳴いた声(聴覚)と「月ぞ残れる」という視覚、さらには朝方の空気の清々しさという触感、各々を感じることができたら、この歌がもっと好きになると思います。

ほととぎすは見えていません。鳴き声だけです。しかも、鳴き止んだのです。

そこに残るのは・・聴覚が残した余韻と、目の前に広がる視覚です。

有明の月が…朝方の空にぽっかり浮かんでいる…その様子だけが映りますね。

もしも、ほととぎすの姿が視界の中に入っているように表現したら、有明の月はこんなに明瞭には感じられなくなると思います。

読んでください、ありがとうございます。

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