百人一首/辛い恋/恋に落ちる/恨み/失恋・悲恋/情熱/涙の人生歌


恋はワクワクドキドキ、恋はハッピー….なものなのです。

でも一方で、失恋や悲恋という恋もあり、恋は残酷なものでもあります。

さらに恋というものは、

ワクワクドキドキやハッピーから失恋や悲恋へと変化したり、失恋や悲恋に落ち込んでいたらワクワクドキドキやハッピーな恋に出逢ったり・・、恋というものは、まるで生き物のように変化し続ける無常なものです。

そして私達は、その無常なものに、昔から翻弄され、そして昔から右往左往してきました。

いつの時代も、恋の悩みは同じのようです。

この度は、恋歌の多い百人一首の中から、”恋に翻弄され” ”恋に右往左往している”「辛い恋」を詠んでいる歌をご紹介いたします。

もしも今、辛い恋に悩んでいたら、昔の人も同じような思いをしていたんだなあ….と思って、これらの歌を味わってみて下さいませ。少しだけかもしれませんが、心が休まります。

メンタルを落ち着かせるためには、共鳴共感できるものを見つけてホッと一息すること、そして、その ”少しの休息” がとても大事です。

目 次

〔参考〕解説には英訳も付けました。英訳は英語を学ぶことができるのは勿論のこと、現代語訳だけでは分かりにくい歌の解釈が分かりやすくなる場合があります。参考にしてみて下さい。英訳の出典は、解説の末尾にご案内しております。

・第44番歌

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに~

「もしも逢えなくなってしまっても、私は貴女も自分も恨みはしません。でも、本当のことを言えば、恨んでしまうかもしれません」という 、これは ”禁断の恋から生まれた「恨み」もしくは「後悔」の歌” です。

第48番歌

風をいたみ 岩うつ浪の おのれのみ~

「当たって砕けろ、恋は上手くいかなくて当然、とにかく情熱を注ぐんだ!」という、これは ”情熱的な片思いの歌” です。

第53番歌

嘆きつつ 独りぬる夜の 明くるまは~

「貴方のいない夜は寂しい。独り寝する朝までのなんと長いことでしょう。貴方はもしかして、他の女の所にいるの…..? ああ、私のこの辛さが、貴方に分かりますか?」という、これは ”自分を独りにさせている男への恨みの歌” です。

第63番歌

今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを~

「貴女のことは諦めます。諦めますが、この気持ちを、貴女にお逢いして、貴女に直接伝えたい。嗚呼、それさえも今となっては叶わないのですね….」という、これは ”悲恋の歌” です。

第77番歌

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の~

「私達の仲は、やもなく引き離されました。でも、必ず、いつか必ず、もう一度一緒になりましょう。待っていてください」という、これは、”不撓不屈な情熱の歌” です。

第82番歌

思ひわび さても命は あるものを~

「私は貴女を愛しているのに、貴女は分かってはくれません。この積年の叶わぬ恋が、辛くて辛くて….、私は耐えきれずに涙がこぼれ出てしまいます」という、これは ”悲恋の歌” そして”涙の人生歌” でもあります。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

〔注〕

現代語訳につきましては最小に留めています。なぜなら、検索して調べることが容易だからです。

なので、ここでは意訳〔FFree translation〕を加えて、解釈に幅を持たせました。(現代語訳も意訳も、筆者によります)

意訳は学校の試験には不向きだと思います。

でも、詩歌鑑賞の楽しみは、直訳をしっかり理解しつつ、感じたままを大事にして/言葉にしていない部分を想像し/解釈を広げていくことにあります。

意訳によって、和歌鑑賞の面白さや楽しみが増えるであろうことを期待しております。

第44番歌

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし

貴女に全く逢わないのであれば、むしろ、貴女を恨んだり、自分を恨んだりはしないと思います。

「(恨みざら)まし」/「まし」は、実際とは異なることを想定する助動詞。「もしも~ならば、~だろう」という推測が入ります。

この歌には、以下の二つの解釈があるそうです。私の意訳では、②の解釈をしております。

① 一度も逢ったことのない人への思い。

・この歌は『拾遺和歌集』から選ばれているのですが、そこには「いまだ逢わざる恋」として載っているそうです。このことから、「この歌は、まだ逢ったことのない相手に対して詠まれた歌である」という解釈です。

② 逢ってくれていたけれども、逢ってくれなくなった人への思い。

・一度も逢ったことのない相手に「恨む」という気持ちを表現するものでしょうか。それは、あまりにも自分勝手なように、私は思います。なので、次の解釈をしました。

付き合っていたのだけれども、相手が自分をないがしろにするようになり、逢うことを断るようになった。もしもそうであれば、「恨む」という気持ちを抱き、「恨む」という言葉を選択することは理解できます。

さらに私は、以下のようなことも想像して、

この歌の裏には「出逢ったことへの後悔の気持」が潜んでいるのではないかと感じています。

「恨みざらまし」というのが、もしも本心ではないとしたら・・・。

だから、「ああ、いっそのこと、逢わなければよかった…」と後悔の念が生まれてきても不思議ではないように思います。だとすると、この歌は ”後悔の歌” であるとも言えるのです。

詩歌というものは、そこに正解を求めるのではなく、上記のように想像の世界を自由に泳ぎまわれるところに、味わい深さと楽しみがあるのだと、私は思っています。

If I would never see you,

on the contrary,

I would not have a grudge against you and myself.

もしも、あなたに会えなかったら、

それどころか、

わたしは、あなたと私を恨むつもりはありません。

contrary/逆に。be+contrary to ~:~に反して。on the contrary:それどころか。

grudge/恨み

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第48番歌

風をいたみ 岩うつ浪の おのれのみ くだけてものを 思ふ頃かな

〔現代語訳〕

風が強く吹くので、岩に当たる浪が砕け散っています。その砕け散る浪のように、私だけが思い悩んで心を乱しているのですね。

「風をいたみ」/「いたみ」は「いたむ(程度が強いこと)」の活用。「み」は「~なので」という意味の接続詞。

〔解説〕

この歌の要点は、

「好きです!」「愛しています!」「結婚してください!」と言い続けても、叫んでも、その気持ちを分かってくれない ”貴女” がいます。

つまり、片思いの歌なのです。

※参考〔英訳/google翻訳〕

These days I have been lost in thought with my heart breaking to pieces alone because she is not interested in me, as well as a wave beats against a rock but it breaks to pieces alone with a fierce wind.

最近、私は彼女が私に興味を持ってくれず、一人で心が砕け散り、波が岩に打ち付けるのに、激しい風で一人で砕け、一人で物思いにふけっています。

she is not interested in me, 「彼女は私に興味が無い」 こんな大変で悔しくて情けなくて辛い思いを、中学で習う英語でさらりと表現できるのですね。

she is not interested in me, 個人的には、思いたくはない/使いたくない表現です。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第53番歌

嘆きつつ 独りぬる夜の 明くるまは いかに久しき ものとかは知る

〔現代語訳〕

(貴方がいらっしゃらないことを)毎晩嘆きながら、独りで寝る夜明けまでの間が、どんなに長いものであるのか、貴方はお分かりでしょうか。お分かりではないでしょうね。

※この歌は平安時代に詠まれています。当時の婚姻は一夫一妻制が基本にありますが、本妻(正室)とは別に妾(側室)や浮気相手と逢う場合、男は女の家に夜訪れて朝に帰るという慣習がありました。そういう事情をご理解のうえお読みくださいませ。

〔解説〕

「嘆きつつ」「つつ」は反復を表す接続助詞です。

なので、ここの意味は「今晩」だけではなく「毎晩毎晩….」という理解がよいと思います。

つまり、毎晩毎晩、朝が来るまで「今日来るのか?」「もうすぐ来るのか?」「今来るのか?」と思いながら、私は悶々として ”貴方” を待っているわけです。

でも、”貴方”は来ません。

きっと、そのうちに、”貴方” を待つ思いは「恨み」へと変わっていっても不思議ではありません。

この歌を詠んだ頃には既に、怒り心頭に発し、来ない彼を恨んでいたかもしれません。

相手への態度や姿勢/行動について、自分としては、たいしたことではないと思っていても、相手は自分とは異なる感情を抱いている場合があります。それが恋愛のこととなると・・愛は一瞬にして ”恨み” ”憎悪” へと変化してしまうことも・・・。気を付けたいですね。くわばら、くわばら。

※参考〔英訳/google翻訳〕

You don’t know how long the night is when I sleep alone missing you until dawn, do you?

私が夜が明けるまであなたを恋しく思って一人で眠る夜が、どれくらい長いかわかりませんよね?

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第63番歌

今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな

〔現代語訳〕

あなたに逢えなくなった今は、もうあなたのことは諦めます。この思いだけでも、人づてに伝えるのではなく、直接あなたにお逢いして伝える方法があればいいのですが・・。

〔解説〕

この歌の作者は藤原道雅。いろいろな解説書を読むと、道雅は禁断の恋をして、その恋がバレて彼女との仲を引き裂かれてしまったそうです。そして、その後は出世の道を絶たれて、すさんだ日々を過ごしたとか。一方で、彼女の方は失意の中にあって尼になり、そのまま生涯を終えたという話です。

「とばかりを」

:「と」は格助詞で「今はただ思ひたえなむ」を受けています。

:「ばかり」は、限定を表している副助詞。意味は「~ということだけを」

※参考〔英訳/google翻訳〕

Now I wish I had a way to tell you directly,

not by a messenger,

only that I will get over you.

今となっては、メッセンジャーではなく、あなたを乗り越えるということだけを直接伝える方法があればよかったのにと思います。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第77番歌

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ

〔現代語訳〕

川の流れが早くて、岩に遮られ二つに分かれてしまう急流でも、やがてひとつの流れになるように、一旦は別れても必ずやまたお逢いできると思っています。

〔解説〕

「愛し合っていたのに別れざる負えなかった二人。たとえ離れ離れになろうとも、いつかは一緒になりましょう」という思いを、自然の中の情景を引き合いに出して伝えようとしています。

「瀬を早み(流れの早い川)」も「滝川(滝のような急流)」も、二人の愛の情熱の強さと捉えてよいと思います。その情熱が、何らかの原因によって(その象徴が川の中にあって水流を二手に分けてしまっている大きな岩)行く手を遮られてしまったのです。

そして「われても末に」(たとえ別れても後々は)、「逢はむとぞ」(必ず逢おうね)、「思ふ」(私はそう思っています)・・・と、結んでいます。

「せかるる」

:「せく」(さえぎる)の活用形。「るる」は受身を表す助動詞。なので「せき止められた」という意味になります。

※参考〔英訳/google翻訳〕

I declare that I will be with you again in the future even if I say good-bye to you, as well as a stream running as fast as a waterfall is stopped and split into two by rocks because it runs too fast but unites later.

滝のような速さで流れる小川が、あまりの速さに石でせき止められ、後に合流するように、別れても将来また一緒にいると宣言する。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第82番歌

思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり

〔現代語訳〕

叶わぬ恋に思い悩んで生きてきて、命だけは長らえてきたのに、心は耐えきれないで涙が流れ出てしまいます。

私は「さても命はあるものを」に長い時間の経過を感じています。

片思いに悩んで ”死ぬか生きるか” という迷いに、人は短時間で答えを出せるとは思えません。恋患いは、長く続くものだと私は思うからです。

もしも、片思いに悩み続けて何十年・・だとしたら、それは人生そのものです。

つまり、この歌は「成就できない恋に悩んで〇十年。それが私の人生」という ”人生の歌” だと解釈することもできるのです。このような見方は、鑑賞の幅を広げる味わい方のひとつです。

〔解説〕

この歌については、別途以下の記事にて解説いたしましたので、こちらをのぞいてみてくださいませ。

・百人一首/英訳/思ひわびさても命はあるものを/短歌も英語も学ぶ⑦

※参考〔英訳/google翻訳〕

I love her in secret but she wouldn’t know it,

and this love has been annoying me for years.

Although I’m still alive,

yet my tears can’t endure the bitterness and run down.

私は密かに彼女を愛していますが、彼女はそれを知らないでしょう。

そしてこの愛は私を何年も悩ませてきました。

まだ生きているのに、

辛さに耐えきれず涙が流れてしまいます。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

英訳は以下より引用させていただきました。ありがとうございます。

〔英訳の引用元〕”小倉百人一首英訳” より

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http://www3.to/kyomi/database/h1/

参考

以下の記事では、百人一首をいろいろな視座より解説しております。お読み下さいませ。

百人一首/意訳/英訳/恋・人生・世の中・季節・花・日本の名月など