
百人一首。英訳を読めば、たとえ難解な解釈でも分かりやすく理解できて、楽しく鑑賞することができます。
和歌の心も英語も
同時に学べます

(画像はイメージです/出典:photoAC)
今回のテキスト/人生哀歌
第66番歌
大僧正行尊(1055~1135年)

もろともに あはれと思へ 山ざくら 花よりほかに 知る人もなし

〔以下引用〕
Miss me as well as I miss you, wild cherry blossoms. In such a heart of a mountain, it is only I that know how beautiful you are and it is only you that know how lonely I am.
〔引用終わり〕
〔引用元〕”小倉百人一首英訳” より
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http://www3.to/kyomi/database/h1/
〔※難解だと思われている古文が、こんなにも簡単な英語で表現できるんですね〕
〔参考/日本語訳〕引用元:Google 翻訳)
私がいなくて寂しい、山桜よ、あなたがいなくて寂しい。 こんな山奥で、あなたがどれほど美しいかを知っているのは私だけであり、私の孤独を知っているのはあなただけです。

上記の英訳に改行を加えてみましょう。
改行を活用することによって、ひとつひとつの文章が生き生きと生まれ変わります。改行にはそのような効果があります。
そしてさらに、そこへ意訳を絡めて解釈してみたいと思います。
また、声に出して詠んでみましょう。
声に出して読んでみることは、より深く鑑賞するひとつの手段です。
Miss me,
as well as I miss you,
wild cherry blossoms.
In such a heart of a mountain,
it is only I that know how beautiful you are
and it is only you that know how lonely I am.
ねえ、私のことが恋しかったかな….
私が、あなたのことを恋しかったようにね。
素敵な山桜さん。
こんな山奥で、
あなたの美しさを知っているのは私だけだよ。
そして、私が孤独であることを知っているのは、あなただけなんだよね。
※筆者によるオリジナル解説です。言葉の意味については、Google翻訳などから引用しました。

この歌は、僧侶である作者が山奥へ修行に入り、そこで出会った山桜に対して自分の気持ちを述べたものです。桜を擬人化しています。
たった一人、山奥でおこなう修行は苦しいものであるという前提の理解は必要です。
山桜に対して「私の気持ちをわかってくれるのは、おまえだけだよ」という思いを吐露して、そして同時に自分に言い聞かせる。そうすることによって、寂しさを紛らわそう、私の修行の辛さを分かってもらおう・・としているのだと思われます。
さて、英訳は、それらの思いと、山桜と会話をする様子がとても美しく描かれていますね。私はとても気に入っています。
*
【 as well as ~】/①~と同じように ② A as well as B と使い「BだけでなくAも」
ここでは「もろともに(副詞:一緒に、そろって)」を①の意味で使っています。
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【あはれと思へ】/しみじみと懐かしく思ってください….
このニュアンスを訳すのに、ここでは miss を使っています。miss には、そのような意味があるんですね。
私の手元にある英英辞典では、miss に以下の説明があります。
” to feel sad because someone you love is not with you. “
〔愛する人がそばにいなくて悲しいと感じること〕
*
【知る人】/ここでは、自分と気持ちを共有し共感してくれる人。
人というものは、自分のことを誰かに分かってもらうことに、一番心が安らぎますね。気持ちを分かちあえる人が居る居ないは、人の幸福感を左右する大事なことだと思います。
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そしてさらに・・・、
詩歌の解釈には曖昧さを大事にして、いろいろな状況を想像しながら楽しむ解釈の方法があります。それは、次に記します【意訳(free translation】です。
以下に【直訳】と【意訳】を並べます。【意訳】の楽しさにも触れて下さいませ。
(画像はイメージです/出典:photoAC)

【参考】
※ 直訳:書籍やネットなどで多々公開されている一般的な解釈です。これは、そのうちのひとつです。

[以下引用]
” わたしがおまえを懐かしく思うように、おまえもまた私をなつかしく思ってくれ、山桜よ。花のおまえ以外に、心を知る友もいないのだから”
(引用元:ちくま文庫/百人一首/2010年8月20日第15刷)
※ 意訳〔free translation〕は詩歌を味わう一番の楽しみだと、私は思っています。

山桜よ、おまえはこんな山奥にひっそりと咲いていて、その姿は綺麗なのに、寂しいなぁ・・。山桜よ、私と一緒になって、私のことを寂しい奴だと思ってくれないかなぁ・・。私の寂しい心を分かってくれるのは、山桜を、おまえしかいないんだ。ああ、辛い・・・。
(意訳:かとうあきら/筆者)
【私見】

難解な古文の短歌が、こんなに易しい英語で表現できるなんて、これは感動ものだと思いませんか? もしもこれを古文の授業で取り入れたら、古文の授業はもっと楽しく魅力的なものになると、私は思っています。
〔歌の内容、そのものについて〕
漂白の詩人山頭火は「やっぱり一人がよろしい雑草」とも「やっぱり一人はさみしい枯草」とも詠みました。人は、一人でいたいときもあれば、一人でいるのはさみしい時も、両方あるっていうわけです。
どちらにしても、自分のことを分かってくれる誰かがいれば、心強いと思います。その誰かが、この歌では山桜だったのです。
そして、分かってくれる誰かを求めて、作者は歌に詠んだのでしょう。
歌に詠んで、自分の存在を知ってもらいたいと思ったのです。
もしも、一人(独り)に耐えられるのなら、歌には詠んだりしません、きっと。
*
百人一首には「思ふ」や「思ひ」という言葉を詠んでいる歌が20首あります。5首のうち1首なのだから、多いですね。
どんな歌なのかな? 共通する特徴はあるのかな? と思って読んでいたら、あることを発見しました。それらの歌の英訳を探ってみると、I think ~(名詞は thought)だと思っていたら、必ずしも I think ~(名詞は thought )ではないんですね。
実は、そこが詩歌の面白さなんです。
実は、「思う」「思ひ」というひとつの言葉をとりあげても、いろいろな解釈ができるんです。
だから、それを英訳すると I think ~ (又は thought )以外の表現も多々出てくるわけです。
この度は、百人一首の中から「思ふ」という動詞(又は「思ひ」名詞)を詠んでいる歌の英訳を紹介しながら、その歌の心に触れていきたいと思います。
なので、この頁からは、短歌の心も、英語も、同時に学ぶことができます。
なお、以下の①②の項目につきましては、以下の記事を参照してくださいませ。
・百人一首/英訳/逢ひ見ての後の心にくらぶれば/短歌も英語も学ぶ①
①〔概論〕詩歌を英訳して鑑賞する理由
② 百人一首を英訳で鑑賞する【理由】【記事の構成】

以下では、百人一首に詠まれている共通の語句を中心に分類して、解説しております。ご一読いただければ幸いです。
ご一読くださり、ありがとうございます。