月を詠んだ和歌/百人一首07/故郷の月/望郷ノスタルジア/天の原


日本の有名な歌集「百人一首」に収められている和歌の中から、「月」を詠んでいる和歌をご紹介いたします。

百人一首/第七番歌

第七番歌。

その昔…奈良時代遣唐使として唐へ渡った安部仲麻呂が、故郷を懐かしく思い出して詠んだ歌です。

故郷を懐かしく思う、そのきっかけが、異国の地で見た夜空に煌々と輝くお月様でした。

安部仲麻呂は、夜空に煌々と輝くお月様を見て、

「ああ、この月は、故郷の春日の山に出ていた月と同じだ。故郷が懐かしいなぁ…。みんなどうしているのかなぁ…。いつ帰れるのだろう…」という感慨に浸ったのです。

【古語の説明】

:「あまの(天の)」/天空の。「はら(原)」は広い所の意味。

:「ふりさけみる(振り放け見る)」/遠くを仰ぎ見る。はるかにながめる。

:「ふりさけみる」の已然形「ふりさけみれ」+「ば」/仮定の接続助詞。

:「いづ(出づ)」/①出現する。はっき見える ②出ていく ③超越する。離れる。のがれる。

:「いづ(出づ)」の連用形「いで」+「し」/過去の助動詞「き」の連体形。

※参照引用は、古語辞典〔角川 必携古語辞典 全訳版/平成9年9月初版/発行:㈱角川書店〕によります。

【「春日」とは?】

「春日」:現在の奈良県春日町です。ここには、ユネスコの世界遺産に「古都奈良の文化財」の一つとして登録されている春日大社という神社があります。

【「三笠の山」は何処にある?】

春日神社の東側は丘陵となっていて、その中に三笠山があります。

「三笠山」:春日神社の東北東よりにある標高342mの小さな山。若草山とも呼ばれています。

推察ですが、春日大社において安部仲麻呂ら遣唐使の安全祈願が行われたのかもしれません。そしてその時に、安部仲麻呂は三笠山の上辺りに煌々と輝く月を眺めていたのかもしれません。

そして、異国の地において、煌々と輝く月を見て「ああ、あの時の月と同じ月だ…」と望郷の念を抱き・・、この歌を詠んだ。

この歌は、多くの解説書でそのように解釈されています。

ところで、異国の地で詠んだ歌がどのようにして日本に伝わったのでしょうか。・・その部分は定かではありません。きっと仲のいい友達がいて日本に持ち帰ってくれたのだと、そこにもいろいろなやりとりがあったのだろうなぁ…..想像をすることも、歌を鑑賞する楽しみのひとつです。

(三笠山の場所/出典:goo不動産・住宅地図より)

月の画像を用意しました。たとえば、こんな感じ。

異国の地から故郷を想う作者の気持ちを、想像してみましょう。

直訳も意訳も、ここでは省略します。作者の置かれた立場、その環境、そしてその気持ちを、自由に想像してみましょう。

百人一首/第七番歌

〔読み〕

あまのはら ふりさけみれば かすがなる

みかさのやまに いでしつきかも

三笠の山にいでし月かも

〔イメージ例〕

〔画像はイメージです/出典:photoAC〕

安部仲麻呂は遣唐使として中国へ渡り、勉学の後、日本へ帰国しようとするものの思うように行かず、そのまま中国の地で客死されたそうです。

なので、この歌が詠まれた場所は、中国の地、もしくは何度か試みられた帰国の途中(失敗)…であると想定されます。ただ、詠まれたこの歌がどうやって日本に伝わったのかは、先に述べたように、不明だそうです。

読んでくださり、ありがとうございます。

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