月を詠んだ和歌/百人一首79/秋の月/秋風にたなびく雲の絶え間


日本の有名な歌集「百人一首」に収められている和歌の中から、「月」を詠んでいる和歌をご紹介いたします。

百人一首/第七十九番歌

秋です。

空には風が流れているのでしょう。雲が棚引いています。

雲が切れ切れになった、その間から、月の光が漏れています。

季節は秋。その夜空の様子を描写していることが分かります。

難解な古語は無くて、情景が目に浮かぶ、とても分かりやすい和歌だと思います。

この言葉、古語辞典には以下のように解説されています。

〔参照〕以下「角川必携 古語辞典 全訳版/平成9年11月初版」によります。

:「影」

① (日・月・火などの)ひかり。

② (光がさえぎられてできる)暗い部分。影。影法師。

③ (影の性質から)ぴったりついて離れないもの。/ぼんやり見えて、実体のないもの。/(本物の影という意味から)まねて作ること。また、その物。/(弱々しくはかない感じから)やせ細ったもの。

④ (人の)姿。

⑤ 目の前にいない人の面影。幻影。

:「さやけさ」

私の辞書に「さやけさ」は載っていませんでした。でも、形容詞「さやけし」が載っていました。「さやけさ」は、おそらく「さやけし」の名詞形だと思われます。「さやけし」の意味は以下のとおりです。

① すがすがしい。澄んでいる。きよらかだ。

② はっきりしている。明らかだ。

これで、「影のさやけさ」は「月の光が澄んでいる」という意味だと分かります。

意訳をすれば、

「月の光の、なんと清らかに澄んでいることだろう…ああ、美しい!」

というような意味だと思います。

【参考】

「影」「さやけさ」共に、古語辞典のみならず、現代語の国語辞典にも掲載されています。

この和歌は平安時代の作品ですが(作者:藤原顕輔/1090生~1155年没)、「影」「さやけさ」の意味することについては、昔も今もその意味はあまり変わっていないことが分かります。〔参考〕以下を国語辞典より引用いたします。

※以下は、私が使っている国語辞典〔明鏡国語辞典/大修館書店 2010年12月 第二版〕によります。

:「影」

①物が光をさえぎった所にできる、物の黒い形。

②光の反射で、水面などに映る物の形。

③日・月・星などの光。ex:「月影」「星影」

④目にうつる姿・形。ex:「影も形も見えない」

⑤目の前には存在せず、心に思い浮かべる姿・形。おもかげ。ex:「亡き人の影が浮かぶ」

⑥悪い事態。ex:「戦争の影が忍び寄る」

:「さやけし」

①さえて、明るい。ex:「さやけき月影」

②音や声が澄んで、よく聞こえる。ex:「さやけく響く谷川の音」

「さやけさ」は「さやけし」の派生語。

第七十九番歌/意訳 

〔読み方〕

あきかぜに たなびくくもの たえまより

もれいづるつきの かげのさやけさ

〔参考〕

「雲がたなびく」様子は、春の情景のひとつとして取り上げたものが、枕草子(作者:清少納言)に書かれています。

「春はあけぼの」で始まる、有名な冒頭部分です。

”春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは。すこし明かりて、紫立ちたる雲の、細くたなびきたる”

百人一首の第79番歌では、秋の夜空にたなびく雲と、その雲の絶え間に見え隠れする月を併せて詠んでいます。

意訳〔free translation〕

ほら、夜の空に秋の風がふいている。

少し肌寒い・・もう秋になってしまったんだね。

見てごらん。

雲が、輝くお月様に照らされて、ゆっくり流れていくよ。

たなびく雲の間から、時折もれる月の光のその輝きは、

なんて清々しくてきれいなんだろう。

こんなに綺麗な月を観ることは、そうそうないと思うよ。

きれいだね、秋の月・・・

読んでくださり、ありがとうございます。

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