介護の詩|認知症のあなた/哀切|老人ホームで暮らす高齢者の様子


※この頁では老人ホームでの出来事を、そこで働いている介護士が口語自由詩にてお伝えしています。

【車止めで一息 89】

認知症のあなた/哀切

(イラストはイメージです/出典:photoAC)

老人ホームで暮らす、お婆ちゃんお爺ちゃんのこと、

気になりませんか? 

少しだけでもいいので気にしてみて下さい。

そこには、人生最期の自分の姿があるかもしれません。

認知症を調べると、認知症はその原因によっていくつかのタイプに分類されていて、タイプにより出現する症状の特徴を知ることができます。

でも実際に対応するときは、その原因にひとり一人の性格や考え方や価値観、生い立ちや老人ホームに入るまでの生活環境などが影響します。なので、10人の認知症患者様には10通りの認知症があると理解して良いと思います。認知症になっても十人十色は変わらないということです。

ただ、共通するのは、症状出現の初期から周囲の者が認識できる”記憶障害”です。記憶障害が進むと家族の顔も、家族の存在さえも忘れてしまいます。

忘れられる方としては、悲しくて寂しくて、辛いですね。私は父で経験しました。そしてその時に感じる思いは、老人ホームで介護にあたっている介護士も同じです。

認知症のあなた/哀切 】

車止めで一息 89

認知症のあなた/哀切

あなたはどんどん離れていく。

あなたはそこにいるのに、

あなたはどんどん離れていく。

あなたは私の顔を覚えてくれた。

あなたは顔を合わせれば笑顔で応えてくれた。

あなたは私の介助を喜んでくれた。

なのに、今は、

あなたはどんどん離れていく。

あなたはそこにいるのに、

あなたはどんどん離れていく。

あなたは二度の入院もなんのその。

あなたは病気や怪我を乗り越えて年を重ねた。

あなたは好きな和歌を詠み聞かせてくれたこともあった。

なのに、今は、

あなたはどんどん離れていく。

あなたはそこにいるのに、

あなたはどんどん離れていく。

そしてとうとう、

あなたは私の顔を忘れてしまった。

あなたは顔を合わせても無表情になった。

あなたは遠い遠い人になってしまった。

あなたはそこにいるのに、

あなたはどんどん離れていく。

あなたはそこにいるのに、

遠い遠い人になってしまった。

悲しくてやるせない。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

【 詩 境 】

詩 境

社会に出て最初の嬉しいことのひとつは、お会いして間もない方に自分のことを名前で呼んでもらえた瞬間ではないでしょうか。

私がまだ20才台、就職したての頃、営業先で初めて相手様に名前で呼んで頂いた時には嬉しかったものです。なので、相手様を名前できちんと呼ぶ、この当たり前と思われることを大事にしてきました。

そして、シニアになり介護職に就き、ご入居者様から名前で呼ばれ、さらに訪問時「かとうさんに来てもらってよかったぁ」と言って頂けることで、やっと仕事ができているなと感じることができている今日です。

でも、現実は苛酷で悲しいものです。認知症のご入居者様は、症状が進むとスタッフが誰なのかは忘れてしまうのです。

〔介助をさせていただいている間に、”この人は、どうも自分と関わりのある人らしい”と、おぼろげながら思われるようです。その方の表情の変化で、私はそのように感じています。それがわずかの救いです。〕

ある程度の症状が進むと、本人様は家族様について「そういうのはいません」とか「わかりません」というご返事をして下さいます。

あるご入居者様のご家族様の面会時、本人様は笑顔も有りお話されていたので私は安心していたのですが、ご家族様が帰った直後に「今の、誰なんですか?」と本人様の口から出たときには、私は返す言葉に戸惑ってしまいました。

この度は、そのようなときに感じる悲しさや寂しさを言葉にしてみました。

「哀切(あいせつ)」とは、”哀れで物悲しく、切ない様子を表わす言葉”です。

<参考> 認知症:健康長寿ネット

・上記は情報量が多く、中身が濃いです。下記の方がわかりやすいと思います。「見当識障害」についても、すぐに見つかります。

<参考>認知症の中核症状:健康長寿ネット

(イラストはイメージです/出典:photoAC)

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以下にございます。

介護の詩/老人ホームで暮らす高齢者の様子/「車止めで一息」/詩境

明日の自分が、そこにいるかもしれません。