子夜呉歌/李白/厭戦気分を詠んでいる漢詩/教科書でおぼえた名詩より


この記事は前回の続きです。

前回の記事は「厭戦を表現している漢詩「涼州詞」王翰、教科書でおぼえた名詩より」です。

【経緯】

「教科書でおぼえた名詩より」という愛読書を本棚から久しぶりに取り出して読んでいたら、反戦や厭戦がテーマになっているように感じた漢詩を発見しました。以前にも、この本は読み、その漢詩は学生時代に読んでいるはずですから、いわば再発見です。

何度読み返しても「戦争って、誰だってしたくはない。早く終わってほしい」という思いは、いつの時代、世界のどこにおいても、同じなんだなあ・・という感慨を得ました。

この記事は、そう感じた二つ目の漢詩、李白の「子夜呉歌」の紹介です。

掲載されていた本は、この本です。

タイトル : 教科書でおぼえた名詩

編集 : 文藝春秋、 発行所 : (株)文藝春秋社、 発行日 : 2008年 7月25日 第7刷

【 子夜呉歌 】

 長安一片月

 万戸擣衣声

 秋風吹不尽

 総是玉関情

 何日平胡虜

 良人罷遠征

【読み方】

長安一片の月

万戸衣を擣つの声

秋風吹いて尽きず

総て是れ玉関の情

何の日か胡虜を平らげて

良人遠征を罷めん

【掲載ページ】

この「教科書でおぼえた名詩」には、日本の詩にも漢詩にも解説はありません。漢詩については、読み方を先に載せて、その下に本文です。

解説を載せていないのが、この本のいいところだと思っています。何故なら、解説がないと分からないものは、詩としては片手落ちだと思うからです。読んだだけで、言葉が感受性を刺激するようでなければ、詩ではないと私は思っています。もちろん、古語というのがあるので、その場合にだけは注釈があってもいいかもしれませんが、この本に掲載されている詩の多くの漢詩には、難解な古語はありません。教科書にのっていた漢詩ですから、分かりやすい内容であることは当然なのかもしれません。

【解説】

詩は、その語彙と語感、語句のリズム、そして音調、その各々が読む人の心に響く時、生き生きとして、まるで生き物のように動き出します。

この詩も、声に出して読み、その情景を想像してみれば、秋の日の夜に、きっと家族に着せるのであろう衣類を整えながら「あなた、早く帰ってきてください」と願う家族の思いがしんしんと伝わってきます。

例えば、そのような直感が、詩の味わいには大事だと、私は思っています。

この詩では、最後の二行。「何の日か胡虜を平らげて 良人遠征を罷めん」中に、私は反戦と厭戦の思いを感じました。今の時代にも通じることです。

前回の記事で紹介した涼州詞を書いた王翰と並べてみると、王冠は687?~726?に生きて、李白は701~762年に生きていたので、二人は同じ盛唐の時代を生きています。

同じ時代に生きた王翰が、涼州詞で「古来征戦幾人か回る」(昔から、戦争に行った兵士が、いったい何人帰ってきたというのだ、帰ってこないじゃあないか、みんな死にいくようなものだ)と書いていることを思うと、李白の子夜呉歌の最後の一行「良人遠征を罷めん」(あなた、はやく戦争から帰ってきてほしい)という思いには「思いたくはないけれど、もしかしたら帰ってこないかもしれない(戦争で死んでしまうかもしれない)」という思いが少しあるかもしれません。そう考えると、この最後の一行は、とても悲しく感じられるのです。

【意訳 / free  translation】

ここは、長安。

夜空には、月がぽつんとひとつ、浮かんでいるだけ、何も無い。

街中だというのに、本当はもっと賑わっていてもいいのに、街は静まりかえっていて、吹く秋風は寂しそうだ。

街は静まりかえっている。だから、どの家からも聞こえてくる衣を打つ音だけが、街中に響いている。服の生地を叩いて、着心地のいい服に仕上げようとしているのだろう。でも、その服を着る夫や息子たちは、どの家でも兵隊にとられてしまっている。衣を打っているのは、残された女たちなのだ。

秋風はますます吹いてきて、長安の街は、ますます寂しさを増してきた。

この寂しさの元は、全て西域の玉関から起きている。私の夫は、もう何年も兵隊として西域に行ったままなのだ。夫よ、この服をそっちに送るから、せめてこれで温まっておくれ。

いったい、いつになったら胡虜との戦争が終わるのだろう。ずーっと続いたままじゃあないか。戦争よ、早く終わってくれ。戦争よ、早く終わって、私の夫を返してほしい。

【再発見ノート】

統治者は領土を増やして、手を叩いて喜んでいるのかもしれません。ただ、領土を増やすことが人々の本当の喜びになるのかといえば、それは疑問です。戦争をすれば、数多くの死者が出て、家族が、友人が、死んでいくのです。一人の兵隊の死に、いったい何人の悲しみが宿ることでしょう。人類は長い長い間、それを繰り返してきました。そして、やっと最近です。20世紀になってから、植民地政策には終止符を打ち、国際連合も組織されました。領土を武力で奪うという時代は終わりを告げて21世紀を迎えました。

なのに、今また戦争です。人を殺すために、多くの人を使い、多くのお金を使い、人々の生活を破壊しているのです。人類は進歩したはずではなかったの? と、そう思うと、戦争の歴史というものを振り返らずにはいられません。

戦争を一日でも早く終えることを願います。

【教科書で学んだ懐かしい詩歌】の総合目次は、以下にございます。

ご一読いただければ、幸いです。

「教科書で学んだ懐かしい詩歌」

読んでくださり、ありがとうございました。