
百人一首。英訳を読めば、たとえ難解な解釈でも分かりやすく理解できて、楽しく鑑賞することができるんです。今回は、怖い”恋の恨み心”を詠った歌です。
和歌の心も英語も
同時に学べます

(画像はイメージです/出典:photoAC)
今回のテキスト/怖い恋の恨み心
第38番歌
右近(生没年不明/醍醐天皇(885~930年)の皇后穏子に仕えた)

忘らるる 身をば思はず 誓ひして 人の命の 惜しくもあるかな

〔以下引用〕
I never think it is bitter for me that you are forgetting me,
or rather, I’m sorry you must die incurred the punishment of heaven
because you have broken the promise you swore by God.
〔引用終わり〕
〔引用元〕”小倉百人一首英訳” より
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http://www3.to/kyomi/database/h1/
〔※難解だと思われている古文が、こんなにも簡単な英語で表現できるんですね〕
〔参考/日本語訳〕引用元:Google 翻訳
あなたが私を忘れることが私にとって辛いとは決して思いません。むしろ(あなたが)神と誓った約束を破ったために、(あなたが)天の罰を受けて死ななければならないのが残念です。
※筆者によるオリジナル解説です。言葉の意味については、Google翻訳から引用しています。

この歌は恋歌に数えられていますが、その中身は・・・自分を振った男への恨みを綴った怖い歌です。それが、以下の一文から読み取れます。
you must die incurred the punishment of heaven,(あなたは神の罰を受けて死ななければなりません)と言っているのです。
もしもこれを読んでいるあなたが、振った元恋人からこのようなことを云われたら、背筋が凍る思いがしませんか? 恋愛において「振る」というのは重大なことだと再認識しないといけません。
【 incur 】/(ある行為の結果として)受ける、まねく、負う。
incurred は incur (動詞)の過去形
【 punishment 】/罰、処罰
the punishment of heaven 神による処罰
*
【 I never think ~】/絶対に思わない(強調)
I don’t think ~ でないところに強い意志が感じられますね。彼女は彼に「あなたが私のことを忘れても、私は辛くなんか思わないわよ、絶対にね!」と伝えたいわけです。
*
【 I is bitter for me 】/それは私にとって辛いこと
*
【 or rather~ 】/というよりは~、もっと正確に言えば~….
この英訳は絶妙な上手さだと私は思っています。辛くはないと言い切った後に、冷静になって言いたいことを伝えようとしている雰囲気がよく伝わってきます。
なぜなら、or rathre~以下の事柄は、冷静に言われるほどに、作者の復讐したいという怖い気持ちが伝わってきますからね。
*
「あなたが神の罰を受けて死ななければならない」…..その理由を次のように詠っています。
【 because you have broken the promise you swore by God. 】/なぜなら、あなたは神と誓った約束を破ったのです。
【 breake promise 】/約束を破る
you broke your promise to me(あなたは私との約束を破りました)というように使われます。この歌では、彼は作者に、おそらく「私は神に誓って君を愛し続ける」なんて言ったのでしょうね。・・・でも、彼はその約束を破ったのです。
【 swear 】/誓って言う、断言する
【 you swore by God 】/あなたは神にかけて誓いました。
swore は swear の過去形。
*
そしてさらに・・・、
詩歌の解釈には曖昧さを大事にして、いろいろな状況を想像しながら楽しむ解釈の方法があります。それは、次に記します【意訳(free translation】です。
以下に【直訳】と【意訳】を並べます。【意訳】の楽しさにも触れて下さいませ。
(画像はイメージです/出典:photoAC)

【参考】
※ 直訳:書籍やネットなどで多々公開されている一般的な解釈です。これは、そのうちのひとつです。

[以下引用]
”忘れ去られる私自身のことは何とも思わない。ただ神かけて誓ったあの人が、命を落とすことになるのが惜しまれてならない”
(引用元:ちくま文庫/百人一首/2010年8月20日第15刷)
※ 意訳〔free translation〕は詩歌を味わう一番の楽しみだと、私は思っています。

貴方が私のことを忘れても、私は痛くも痒くもありません。私は平気ですよ。私なんか、貴方にとっては、ただの女なんでしょう。どうせ、そうでしょうよ。
ただ、よく聴いてね。厳密に言えばね、貴方はね、神様の罰を受けて死ぬのよ。
だってね、貴方は私への愛を神様にかけて誓ったでしょう? 忘れたなんて言わせないからね!
でも、貴方は私を捨てた・・・と、いうことは・・・、
貴方はね、神様に嘘をついたんだからね。だから、貴方は神様の罰を受けて、この先死ぬのよ。いい気味だわ。まあ、残念といえば、それが残念なことね。
(意訳:かとうあきら/筆者)
【私見】

難解な古文の短歌が、こんなに易しい英語で表現できるなんて、これは感動ものだと思いませんか? もしもこれを古文の授業で取り入れたら、古文の授業はもっと楽しく魅力的なものになると、私は思っています。
〔歌の内容、そのものについて〕
”誓う”ということは、とても重大なこと。
”誓う”からには、その誓いを通し続けないといけません。
ということは、”やたらめったらと誓ってはいけない”ということですね。
特に恋愛の場面では相手がいらっしゃるわけですから、自分一人だけの誓いとは、その重さが違います。・・・くわばら、くわばら。
*
百人一首には「思ふ」や「思ひ」という言葉を詠んでいる歌が20首あります。5首のうち1首なのだから、多いですね。
どんな歌なのかな? 共通する特徴はあるのかな? と思って読んでいたら、あることを発見しました。それらの歌の英訳を探ってみると、I think ~(名詞は thought)だと思っていたら、必ずしも I think ~(名詞は thought )ではないんですね。
実は、そこが詩歌の面白さなんです。
実は、「思う」「思ひ」というひとつの言葉をとりあげても、いろいろな解釈ができるんです。
だから、それを英訳すると I think ~ (又は thought )以外の表現も多々出てくるわけです。
この度は、百人一首の中から「思ふ」という動詞(又は「思ひ」名詞)を詠んでいる歌の英訳を紹介しながら、その歌の心に触れていきたいと思います。
なので、この頁からは、短歌の心も、英語も、同時に学ぶことができます。
なお、以下の①②の項目につきましては、以下の記事を参照してくださいませ。
・百人一首/英訳/逢ひ見ての後の心にくらぶれば/短歌も英語も学ぶ①
①〔概論〕詩歌を英訳して鑑賞する理由
② 百人一首を英訳で鑑賞する【理由】【記事の構成】

以下では、百人一首に詠まれている共通の語句を中心に分類して、解説しております。ご一読いただければ幸いです。
ご一読くださり、ありがとうございます。