介護の詩/大涅槃図・その後/老人ホームでの息遣いと命の灯56/詩境


【車止めで一息】

大涅槃図・その後

(だいねはんず・そのご)

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

〔前作品「死前喘鳴・大涅槃図」の続きです〕ご夫婦で老人ホームに入居。でも認知症の夫は奥様に先立たれ、老人ホームに独り残されてしいました。その夫へ、天国の奥様からのラブレターです。先立たれた奥様の視座にたって書きました。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、”老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息 56

大涅槃図・その後

(だいねはんず・そのご)

わたしの骨はお骨箱の中。

白くキラキラ光る装飾模様のついた化粧箱の中。

子供たちがわたしのベッドの上に置いてくれたの。

一緒にいられるから寂しくはないでしょう。

広い部屋に介護用ベッドが二台。

最後の二年間を一緒に暮らした老人ホーム。

あなたはまだ当分の間そこで寝起きね。

わたしが隣にいるから寂しくはないでしょう。

真っ白いシーツの上に骨になったわたし。

枕を置く辺りより少し下の丁度心臓がくる辺りに置いてある。

本当のわたしはそこにいないけれどね。

一緒にいる気分になれるから寂しくはないでしょう。

寝起きするあなたの隣にわたしのお骨箱・・・びっくりした?

子供たちがしてくれたのよ・・・納骨は先延ばし。

あなたが一人で寂しくないようにねって。

認知症でもお父さんはお父さんだものね。

あなたが横を向けばわたしはいつでもあなたの視野の中。

窓から入る陽射しを浴びて眩しく光る明るいお骨箱。

あなたが天国へ来るまでこのままがいいな。

一人なのに二人、寂しくないからね。

ねえ、見て見て。

ベッドの頭の方に立てかけてあるものを。

大きなボードに貼った紙はきれいな水色・・・そこにはね、

わたしのここで暮らした様子を写した写真が沢山貼ってあるの。

スタッフさんが写真の一枚一枚にコメントを書いてくれているわ。

あなたと一緒にいる写真も沢山あるのよ。

あなたもわたしも、ここにいる沢山の人に見守られていた。

だから、いつも安心していられたのね。

・・・・・

あなたもあと少し、そこで寝起きをしたら、こっちに来るわね。

待っているわよ。

・・・・・

あなたがこっちへきたら、

そのとき、

わたしとあなたは、

永遠ね。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

ご夫婦でご入居。仲の良いご夫婦でいらっしゃいました。

前作品(「死前喘鳴・大涅槃図」)で書きましたが、奥様が先にご逝去され、認知症の夫がひとり残されてしまいます。

この作品は、奥様だったらきっとこのようなことを思うだろうな、奥様だったらきっとこのようなことを口にされるだろうな・・・という事柄を想像して、独り残された夫への、奥様からのラブレターのつもりで書きました。

<永遠ということ>

作品の最後に ”永遠” という言葉を使いました。

この ”永遠” は、視座である奥様の思いとして書いたのは勿論なのですが、もうひとつ意味があります。

それは、残された者にとっての ”永遠” です。

他界された人は、

残された者たちの記憶の中に留まることによって ”永遠” になります。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。