介護/老人ホームでの命の灯
〔自立から自立喪失、他界まで〕
老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?
老人ホームで暮らしている高齢者の方々の様子を ”詩” でお伝えしています。
ご自身の老後のイメージ、老後の生き方、老人ホームでの生活の様子・・・参考になってくだされば幸いです。
老人ホームでの出来事を
詩でお伝えします
〔詩のスタイルは口語自由詩です〕
私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々の高齢者が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。
記
個人情報保護に則り、以下の改変をおこなうことで、個人の特定はできないようにしました。この作業によって、詩作の意図が損なわれることはありません。
・個人名は伏せ、貴女様、貴方様、〇〇様、◇◇様としました。
・地域等、場所の記載については改変しております。
・疾病については、認知症以外はその殆どを改変しております。
・事実を素材にしていますが、事実を素材にしたフィクションも含みます。
(画像はイメージです/出典:photoAC)
車止めで一息
<口語自由詩>
「車止めで一息」作品一覧(公開順)
※以下の作品タイトルをクリックして、各々の詩を味わい下さいませ。
“詩” の中に老人ホームの様子、及び ”詩境”の中には介護に関する専門的な内容も含めて記述しました。介護コミュニケーション、及び老人ホームを選ぶ時の参考になるかと思います。
【凡例】
NO. 作品タイトル/詩境
・詩の内容など、一行コメント。
※詩境:その詩を作ったときの心境を、状況も含めて綴りました。
*
1.記憶の胞子/詩境
・認知症に垣間見える過去。その瞬間を抱きしめたく思いました。
2.順送り(〇〇様の独り言)/詩境
・「こんなことになる前に死んでおくんだった」と、思った時は、もう遅いのです。そういう老後にも時には遭遇します。
3.独り言は願い事(◇◇様の独り言)/詩境
・「朝、眠ったまま死んでいる」みなさんの憧れのようです。
4.穏やかな黒水晶/詩境
・認知症の貴女様。何処か遠くを見つめる瞳は黒水晶のように綺麗でした。
5.故郷の記憶/詩境
・たとえ認知症でも、強い記憶は何かを蘇らせる力になるようです。
6.息子の教え/詩境
・家族の励ましって、温かいなぁ・・・
7.コーラが飲みたい/詩境
・欲を満たそうとするのが生きること。最後くらい満たされたいものです。
8.おれのめしは、まだか!/詩境
・食欲は生きる基本。食欲は、物凄い力を内包しているのです。
9.穏やかな一日(〇〇様の思い)/詩境
・何かを望めば、穏やかでなくなります。諦観すれば穏やかになれるのです。
10.浮世の馬鹿は起きて働く/詩境
・認知症の貴女様。いろいろ教えてくださり、ありがとうございます。
11.掌の上/詩境
・私は介助しているつもりなのに、貴女様の掌の上にいたのですね。
12.もう、いいの、ありがとう/詩境
・諦念は観念ですが、見たり聴いたり感じたりすることもできるのです。
13.孤独/詩境
人には、その人にしか分からない世界があり、そこでは孤独です。それでも寄り添っていくのが介護の仕事です。
14.おじいちゃんの口から「おじいちゃん」1/詩境
おじいちゃんだって、子供に戻るときはあるのです。その瞬間を伝えたく思いました。
15.おじいちゃんの口から「おじいちゃん」2/詩境
おじいちゃんが、おじいちゃんを語ってくれました。安堵の表情は、子供の心に戻っている証だと感じました。
作品NO.14で話題にしたトルコ行進曲。この時から、私も好んで聴くようになりました。元気をいただいております。以下は私のお薦めです。(3:05秒)
16.旅のおわり/詩境
人生という旅は、旅のおわりなのに、独りでまた旅立たなくてはなりません。でも安心して下さい。家族と一緒に、ホームの仲間たちも、旅立ちを見守ってくれます。
17.ありがとう/詩境
人生に不死身はありません。永遠もありません。死ななかった人はいません。つまり、今生きていることは、とても有難いことなのですね。
18.帰宅願望Ⅰ/詩境
「娘が迎えに来てくれるのを待っているんです」そう言って、貴女様はずっと待っていました。認知症の母を取り巻く悲しみが、そこにありました。
19.帰宅願望Ⅱ/詩境
何故ここ(老人ホーム)にいるのかきちんと理解できていない、家族も分からせることができていないままでいる。そのような状況でホームに入居される方もいらっしゃいます。
20.帰宅願望Ⅲ/詩境
何かに囚われた心は幸せでもあり、苦しみでもあります。それは認知症でも同じこと。もしも心が苦しいときは、心を別のものへ向けてみる、それが心の豊かさなのかもしれません。
21.身体は魂を運ぶ/詩境
介護の仕事をしていると【身体は魂を運ぶ乗り物】だと感じる瞬間があります。朝のダイニングルーム、みなさん思い思いに魂を運んでまいります。
22.催促/詩境
認知症の方の中には、ご飯の後に「ご飯はまだですか?」と訴える方がいらっしゃいます。それは、介護職にとって「寄り添う」ことを自己研鑽する良い機会だと、私は思っています。
23.食卓:一日の始まり/詩境
咀嚼する口元は、老いも若きも、あまり変わりはありません。口には、そこだけに何か別の命が宿っているように感じられます。
24.食卓:昼になれば/詩境
日の三度の食事。その様子を見れば、その方の元気度がわかります。そして、口には口だけの命が宿っているようにも感じます。
25.食卓:夜の集い/詩境
ダイニングルームはコミュニケーションの場でもあります。ただ、食事が始まれば、喋る口は食べる口へと大変身。口はバイタリティの塊です。
26.梅干しが食べたい/詩境
“胃ろう”のお婆ちゃん、自分が”胃ろう”であることを忘れて「梅干しが食べたい」と訴えました。その時、私は、その方に寄り添うことができませんでした。
27.お風呂電車/詩境
長年携わった仕事や趣味などの記憶は、他の記憶を押しのけて脳裏にへばり付くようです。へばり付いた記憶は、認知症の方とのコミュニケーションに活かせます。
28.不安が安心に変わるとき/詩境
死への不安は少ない方がいい。その無意識の意識は、煎餅をかじる内耳に伝わる音にも、実は ”生きている証” を感じさせているのです。
29.美しい記憶/詩境
「ありがとう」の心は、欲にまみれることなく美しいです。感謝は、それ以上の欲を抑えるからです。そんな感慨を抱く「ありがとう」に出会いました。
30.ペーシング/詩境
たとえ混濁した記憶でも、その記憶はその人のもの。その人自身なのです。介護する者は目線を合わせ、呼吸を合わせ、そして話す内容にもペーシングをします。
31.冷たい家族/詩境
たまに来る家族が親の様子を見て「まだ大丈夫」だと口走る。そんなとき私は「ここは姥捨て山ではない」と言いたくなります。
32.救急搬送/詩境
高齢者の体調の急変~救急搬送は想定内? いえいえスタッフも人の子。感情は想定内に留まりません。サイレンの音に心は動揺し、サイレンの音に心は圧迫されます。
33.Yesterday/詩境
認知症の方が、ふと我に帰ったような表情を見せる、その一瞬….私の脳裏にはビートルズのYesterday♪~が流れます。私は、あなた様の思い出に思いをはせます。
34.車止め/詩境
両腕をハンドルに伸ばし前傾姿勢になって歩行器を使う、その恰好はまるでライダーです。でも同時に、長い人生の時間軸の中にいることも想像させてくれるのです。
35.記憶の欠片/詩境
認知症の病状が進んでいっても、ある日突然、”あっ戻った!”と感じさせる一言を発してくれる瞬間に、時には遭遇します。嬉しさを感じて涙が溜まる瞬間でもあります。
36.両親とわたし/詩境
老人ホームで暮らす認知症の妻を見舞う夫と娘。妻の症状は進んでいる。途方に暮れる夫。その両親の様子を見つめる娘。それを見守るスタッフ。ある日の一場面です。
37.一億総白痴/詩境
99歳の方に「すごいですね、もうすぐ百歳です」と話しかけたら、一億総白痴と同じだよと言われてしまいました。その時の話です。
38.老後の矜持/詩境
”トイレぐらい自分の脚で行って自分で済ませたい” ….自尊心はADLを維持させる、ひとつのエネルギーです。そんなシーンに出会いました。
39.時計の針/詩境
怪我や病気で入院。回復して戻って来られる殆どの場合、入院生活の長さに比例してADLは落ちています。事前に書面で見て想像はしていても、現場では辛いですね。
40.今は昔のこと/詩境
終末期の母を見舞った子供は前期高齢者。見舞いながら昔日の思いを語ってくれました。私は、街で見かけた若い親子にその話を重ね合わせ、時の流れを感じました。
41.覚悟のありがとうございました/詩境
「ありがとうございます」と、いつも云ってくれていたあなた様。でもその時は「ありがとうございました」でした。私はあなた様の ”死への覚悟” を知り、目に涙を溜めました。
42.そろりそろそろそろそろり/詩境
お年寄りの歩行の様子に「よちよち」という形容があります。私はこういう見方が虐待を生む見えない温床だと思っています。介護業界に改善を望みたいです。
43.励まし/詩境
時には、スタッフがご入居者様から励ましをいただくこともあります。介護だけの一方通行ではありません。高齢者様の言葉を有難く頂戴したいと思います。
44.八十八才のわたし/詩境
老人ホームへの新しい入居者様が、既にそこで暮らしている方達の輪の中へ入ろうとするとき、そこに生じる摩擦は、老いも若きも関係ありません。
45.生き続けること/詩境
軟便を全失禁をされた場合、汚れはシーツの下まで及び、部屋には便臭が充満。ご本人様がそのショックから立ち直るには、相当の時間とケアが必要です。
46.遠い人(認知症)/詩境
「遠い人」これは認知症の方へ寄り添う時の、認知症の方に対する私の印象です。だから、寄り添う工夫は、その方の何にどのように近づくのか…にあります。
47.かくれんぼ/詩境
私が認知症の方を介助するときは、人間の基本的な欲求(マズローの五段階欲求説)を頭に描き、その方が何を求めているのかを探りながら寄り添います。この度は、ほんの一瞬でしたが、上手くいって、ハッピーな時間が流れました。
48.笑顔の観音様/詩境
いつも笑顔で「ありがとうございます」と仰ってくれた貴女様。私は、貴女様を観音様なのだと感じていました。
49.順送りですから/詩境
あの人は了見の狭い人だなと感じることがあれば、自分でも後になって ”あの時は了見が狭かったな” と思い直すことがあったりします。老人ホームでもそれは同じことです。
50.終の棲家の最初の頃/詩境
老人ホームへ入居したての頃は、皆さんとても緊張されています。そして、家族の意向とは異なった思いを抱いている方はなおさらです。家族様には知っておいて欲しい現実です。
51.炎のランナー/詩境
年老いてもなお、若かった頃の姿を彷彿とさせれくれる方がいらっしゃいます。その方の昔は陸上短距離選手。九十五才になった今も、貴方様は、まるで”炎のランナー”のようでした。
52.中空の意志/詩境
いつも眠っているから…と思って黙って爪を切っていたら、その手が突然、中空に浮いたように持ち上がったのです。眠っているようであっても、そこには僅かな覚醒と強い意志の力がありました。
53.現金なおじいちゃん/詩境
入浴を拒否するお爺ちゃん。スタッフが女性に代わったら、とたんにニコニコして「やっぱりはいる」と言ってくださいました。そういうこともあるものです。
54.自立喪失後・車止め/詩境
自立されていたのに、転倒をきっかけにして、みるみるうちに自立を失っていく場合があります。そんな時こそ、老人ホームは役に立つ終の棲家です。
55.死前喘鳴・大涅槃図/詩境
その方の看取り介護の最期は、死前喘鳴から始まりました。そして、家族、スタッフ、多くの人に取り囲まれながらご逝去されるその様子は、まるで大涅槃図のよう。お幸せな最期でありました。
56.大涅槃図・その後/詩境
〔前作品 55.「死前喘鳴・大涅槃図」の続きです〕
ご夫婦で老人ホームに入居。でも認知症の夫は奥様に先立たれ、老人ホームに独り残されてしいました。その夫へ、天国の奥様からのラブレターです。先立たれた奥様の視座にたって書きました。
57.人生は微分と積分/詩境
その方は元数学教師。私に、微分と積分を人生になぞらえて教えて下さいました。数学の苦手な私でしたが、これでやっと微分と積分を理解できました。そしてそれは、まるで人生の羅針盤のようでした。ありがとうございました! 〇〇様!
58.お化粧が人生の華/詩境
リハビリパンツを手にとり「あら、いい帽子になるわね」と言って頭に被った認知症の貴女様。でも、お化粧道具を用意したら貴女様は目覚めました。お化粧に関しては正しい認知が働いたのです。お化粧、それは貴女様にとって人生の華でした。
59.遺言は虹の彼方に/詩境
「葬式は自分の好きなようにしたいなぁ..」そう話していた貴方様。貴方様の考えていたことは、残された者たちへの愛情の発露でした。
60.人生は順送り/詩境
先日は、歩行器を使ってトボトボ歩くお婆ちゃんが「順送りだから、しかたがないか…」と口にされていました。人生に「順送り」という言葉を使うと、それは慰めになるようです。
61.介護の仕事に大切な事/詩境
ご入居者様の中には「早くお迎えに来てほしい」と口にされる方がほんのたまにいらっしゃいます。その時、スタッフはどう思うのか、介護の仕事にどう影響するのか。介護の仕事とは?を考察しながら、介護に大切な事を探ってみました。
62.介護の仕事・清拭/詩境
私が最初に介護の仕事に就いた「住宅型」ではない老人ホームでの出来事です。そこには要介護度の高い方が多くいらっしゃいました。そこで私は「清拭(せいしき)」を覚えました。
63.介護の仕事・食介/詩境
食事を任せると食べる量はほんのわずか。でも、食事介助をすれば沢山召し上がれるお爺ちゃんがいらっしゃいました。自立を促すのか、食事介助をしてお腹いっぱい召し上がって頂いた方がいいのか、その線引きは明確ではありません。
64.介護の仕事で大変なこと/詩境
今回は、老人ホームで働くスタッフの姿勢について言及しました。介護する側の思いを知ることは、老人ホームに関する隠れた情報のひとつです。詩境までお読み下さいませ。
65.老人ホーム/詩境
老後は必ずやってきます。親に、そして自分に。老後を何処でどのように過ごすのか、その選択肢のひとつである老人ホームについて、考えるきかっけになればと思いこれを書きました。
66.特別運行列車:1番線/詩境
老人ホームへの入居。本人様は迷っているのに、家族が家族の理由を優先して入居を決めてしまう場合があります。そんな時、本人様は現実を受容できず、混乱⇒拒否⇒怒り⇒抑鬱という心理的負荷に襲われてしまいます。現場では対応に苦慮します。
67.特別運行列車:2番線/詩境
老人ホームへ、本当は入居したくはないのに、家族の思いを背負って入居しようとしてしまう場合があります。そんなとき、本人様の受容できない心と不安が、自分自身に心理的負荷をかけてしまいます。今回は、お試し入居したけれど6日間で帰ってしまったお話です。
68.特別運行列車:3番線/詩境
ADL(日常生活の活動度合い:Activities of daily living)の低下だけが老人ホームへの入居理由ではありません。伴侶を亡くし独り暮らしをしている親を心配する子の心情というのもあります。その場合、親は子の気持ちを斟酌して受け入れるのですが・・受け入れない親も、もちろん存在します・・どちらにしても、本人は、しばし、諦念と受容という混乱の中に身をおくことになります。
今後も、少しずつ増やしてまいります。
詩 境
人類が生まれてこのかた、死ななかった人はいません。
わたしも、あなたも、愛する人も、みんな死んでいきます。
愛する人が死ぬだなんて、悲しいですね。どうやって耐えていきましょうか・・・わたしには、分かりません。
もしも、愛する人にも自分にも老後があって、共に生きたり、寄り添ったりすることができるのであれば、それは双方にとって、とても幸せなことだと思います。
そして、介護をするほう方も、介護をされる方も、そのときになって慌てないように心の準備をしておきましょう。
それが、この【 車止めで一息 】です。
読んでくださり、ありがとうございます