介護の詩/特別運行列車1番線/老人ホームでの息遣いと命の灯66/詩境


【車止めで一息】

特別運行列車:1番線

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?

私は今、介護士として老人ホームで働いています。

施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

介護/老人ホーム

私はそこで働きながら、人が老いて、そして他界していく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。

そして私は、それらの「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、

「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まると思ったからです。

そしてさらに、

これはおせっかいなことかもしれませんが、

介護をする方にとっても介護をされる方にとっても、

老後の生き方を考えるヒント….

それは人生の締めくくり方を考えるヒントに、

なるかもしれないと思ったからです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

口語自由詩

車止めで一息 66

特別運行列車:1番線

降車はできません、終点まで。

降車はできません、車止めまで。

ご乗車いただいたのは、

特別運行列車です。

運転席のガラス窓を、

叩かないで下さい。

車掌に向かって、

降ろしてくださいなんて、

云わないで下さい。

あなた様の言葉は、

決して罵詈雑言ではないけれども、

不安の塊から発せられていることがよく分かります。

あなた様の行動は、

決して横行闊歩ではないけれども、

見えない手枷足枷から逃れたいことがよく分かります。

あなた様の訴えを聴いて、

運転手も車掌も、

あなた様の周りにいる他の乗客も、

みんなみんな、きっと言うでしょう。

・・ここに居なさいよ。

・・ここなら楽よ。

・・何もしないで三食昼寝付きなんだからね・・と。

でも、あなた様は思う。

ついこの間まで担ってきた、

家族の中でのわたしの役割、

わたしの役割はいったいどこへ行ってしまったの。

そう、それはあなた様の大事な役割です。

ご安心ください。

その大事な役割は、

この特別運行列車に乗ることで引き継がれます。

あなた様の役割は今、

この特別運行列車に乗って、

終点まで行くことなのです。

ご家族様は、

それで安心します。

特別運行列車。

終の棲家。

老人ホーム。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

老人ホームへの入居に際して

「わたしは、ここで一生を終えるのね」とか、「早くお迎えに来てほしいわ」とか、独り言のように、でも周囲に聞こえるようにはっきりと、口にされる方が沢山いらっしゃいます。

みなさん、面と向かっては言いませんが、 ” わたしのことを分かってほしい ” ” わたしは今ここにいるよの ” と周囲に伝えたかったり、自分に言い聞かせることで覚悟を決めようとされているのだと思います。

ここでいう現実とは具体的に、

”終の棲家に住む覚悟”

”直前までの(自立していたと自分で思っている)生活を止めること”

”直前までの家族のためにおこなっていた ”自分の役割” を無くすこと”

この作品は、老人ホームへのご入居者様の中には、上記の現実を受け入れることができないまま心理的に混乱される方もいらっしゃることを伝えたく、言葉にしました。

ご入居者様の悲哀

ご入居者様の中には、

混乱⇒拒否⇒怒り⇒抑鬱….というような心理状態に陥ってしまう方もいらっしゃいます。

そういうことを耳にすると、家族がなんとかしてあげないと・・と思う人もいらっしゃるかもしれません。

でも、ちょっと待って下さい。

家族には、家族の悩みと苦労があるのです。

それは・・・介護疲れです。

家族が介護に疲れて、その結果として老人ホームに頼らざる負えないという判断をされる場合もあるのです。

受け入れる老人ホームでは、お客様が抱えるニーズを解決できるように奮闘します。

外からはなかなか見えずらい部分ですが、そのような問題への解決姿勢の良し悪しは、老人ホームを選ぶときの、ひとつの指標なのかもしれません。

老人ホームは、

その一方で、

でもあるのです。

現場では、そのような心理に寄り添わせて頂きたく思います。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。