介護の詩/「順送り」/老人ホームでの息遣いと命の灯02/詩境


【車止めで一息】

順送り(〇〇様の独り言)

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか? 

私は、介護士として老人ホームで働いています。

私は働きながら、人が老いていく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで得た「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることで、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まるだろうと考えたからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

※〇〇様の〇〇には、自分の親、親しい人、大事な人などの名前を入れて読んでみて下さい。

車止めで一息 02

順送り(〇〇様の独り言)

旅に出た。

遠い遠い旅に出た。

そして、いくつもの苦難を乗り越えてきた。

なのに、さらにまた、

新たな苦難に出会った。

生きてきた。

ずっと一生懸命に生きてきた。

だから、ほっと一息つけると思っていた。

なのに、さらにまた、

一生懸命が必要だとわかった。

わたしは、今、

ひとりでトイレへ行くことができない。

わたしは、今、

ひとりでお風呂に入れない。

こんなはずじゃあなかったのに。

今は昔、

父を介護していた頃の、

父の独り言が蘇る。

「こんなことになる前に、死んでおくんだった」

そして今、わたしも、そう思う・・・。

でも、今となっては、もう遅い。

みんなみんな・・・

みんな、

順送りなんだ。

・・・・・

詩 境

あきら

〇〇様へ、食事介助をさせて頂いているときでした。

〇〇様が正面を向いたまま、ぼそぼそと、話し始めたのです。

「あ~あ、こんなことになるのなら、八十くらいのときに死んでおくんだった」

私は言いました。

「〇〇様、あと二年頑張ったら百歳じゃあないですか。百歳まで頑張りましょうよ」

すると、〇〇様は、顔をゆっくり私に向けて、言いました。

「目は見えない、耳も不自由。ひとりでトイレへも行けない。なのに、百歳まで生きろって言うんですか? 辛いだけじゃあないですか? あんた、普通の馬鹿ですか?」

その時の、〇〇様になったつもりで、この詩を書きました。

ADLとQOL

ADLの追求だけでは手落ちです。ADLと同時にQOLをどう維持していけばいいのか・・ひとり一人への異なる課題です。

そして、ご本人様の今日まで生きてきた姿勢もまた、QOLに影響してくるものと思われます。

車止まで、独り旅

(画像はイメージです/出典:photoAC)

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

【前回公開した詩】「記憶の胞子」

介護の詩/「記憶の胞子」/老人ホームでの息遣いと命の灯01/詩境

【次に公開している詩】「独り言は願い事」(◇◇様の独り言)

介護の詩/「独り事は願い事」/老人ホームでの息遣いと命の灯03/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。