介護の詩/特別運行列車3番線/老人ホームでの息遣いと命の灯68/詩境


【車止めで一息】

特別運行列車:3番線

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?

私は今、介護士として老人ホームで働いています。

施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

介護/老人ホーム

私はそこで働きながら、人が老いて、そして他界していく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。

そして私は、それらの「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、

「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まると思ったからです。

そしてさらに、

これはおせっかいなことかもしれませんが、

介護をする方にとっても介護をされる方にとっても、

老後の生き方を考えるヒント….

それは人生の締めくくり方を考えるヒントに、

なるかもしれないと思ったからです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

口語自由詩

車止めで一息 68

特別運行列車:3番線

あなた様は不機嫌だった。

・・ここに居たら、よけいにボケちゃうわよ。

・・部屋ではテレビを観るしかなくて、

・・ご飯を食べる以外にやることないじゃあない!

あなた様は景色に目をやり、歩きながらトツトツと話した。

・・わたしは、まだ独りでもやっていけるのよ。

・・こうやって歩けるし、買い物だってできるし。

・・こんな杖、ただ持っているだけ、邪魔よ!

あなた様はそれでも家族の気持ちを斟酌した。

・・息子がね、心配するからね、しかたがないわね。

・・息子の言う通りにしてあげただけよ。

・・あとは、あの世へ行くのを待つだけだわ。

あなた様は散歩を選んだ。

外の景色を見て、外の空気を吸い、外の世界に触れる。

帰りにはコンビニに立ち寄り、何か買って帰る。

あなた様の息抜きだ。

スタッフが同行する。

転倒、迷子、交通事故・・危険はいっぱいだ。

そして同行にはサポートサービス料という費用がかかる。

ご家族の同意と同意書が必要だが、あなた様は知らない。

スタッフは話しかける。

スタッフにはコミュニケーション能力が必要だ。

あなた様はいろいろなことを話してくれる。

家族のこと、自分のこと、人生のこと。

スタッフは知っていく。

あなた様のことを、散歩のたびに少しずつ知っていく。

それが後々の介護の役に立つ。

とても役に立つ。

介護される身にしてみれば、

自分のことを知っている人には心を開きやすい。

心を開いてくれたら介護はやりやすくなるからだ。

だから、その人を知るということは、

介護技術の大事なひとつなのだ。

老人ホームという特別運行列車に乗ったあなた様。

気持ちのいい介護でお世話をさせていただきます。

終点までの旅行をお楽しみくださいませ。

短いけれども、

そこにも、

ひとつの、

人生という時間軸があります。

斟酌(しんしゃく):相手の気持ちを推し量って、配慮すること。

〔類似した言葉に「忖度(そんたく)」があります。相手の気持ちを推し量る意味は「斟酌」と同じですが、「斟酌」の方には ”推し量った後の行動” が伴います。ただ、2000年を過ぎた辺りからでしょうか。政治の世界で「忖度」が 「斟酌」と同じように ”行動も伴う意味” も含めて使われるようになりました。その頃からだと思われます。「斟酌」と「忖度」の意味の解釈は似た者同士、曖昧になっています〕

(画像はイメージです/出典:photoAC)

この93才の女性、入居した頃は「拒否」と「怒り」が入り混じったような、「拒否」と「怒り」の感情が行き来しているような、話をすればボルテージは熱くなりっぱなし。介護スタッフは傾聴することが主な介助でした。

散歩に同行すれば、ホームを出発してからホームに帰るまで、ずっと愚痴をこぼしていたのです。

このように心理の変遷過程は「障害の受容過程」と酷似しています。

老人ホームで暮らすだなんて…「私はこんなはずではなかったのに!」という思いは、自己否定から混乱へと向かうのですが、この辺りの心理は、障害受容の第一期である ”ショック期” と似ています。そして混乱した心理は決まった過程を経て受容へと向かいます。厚生労働省の参考になる資料を以下に記します。

〔参考〕「障害の受容過程」自己理解の旅

私達は皆、死へと向かっていく道を歩いていくわけですが、いざ現実味を帯びてくると、そうやすやすと受け入れできるものではないと思います。でも、そういう場合の心理過程を予め予習しておくことによって、覚悟は決めやすくなるのではないかと思います。そういう意味では、「死の受容過程」についても、予習をしておいて無駄はないように思います。

〔参考資料〕キューブラ―・ロスの看護理論

〔参考資料〕エリザベス・キューブラ―=ロス (wikipedia))

「しかたがないわね、順送りだものね」

※「順送り」・・この言葉は死語になりつつあるのかもしれません。若年のスタッフにきいてみましたが、知らないという返事が多かったです。ここでの「順送り」とは「人は皆、順番に”あの世”へ送られていく」という意味です。私がこの言葉を理解できたのは、私の他界した母がよく使っていたからだと思います。

〔”怒り・拒否” から ”受容” への変化〕

その93才のお婆ちゃんは約10か月位かけて、

毎日、朝は朝刊をきちんと読み、体操に参加し(私が勤める老人ホームでは、午前10時から約40分間の体操の時間があります)、毎日ほぼ決まった時間に散歩に出かけ、ご自身の生活に ”シャキシャキッとした規律と管理” を自らの力で作りあげました。

残りの人生、きっと有意義に過ごされると思います。

【参考】

「特別運行列車1番線」「特別運行列車2番線」は、以下にございます。

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。