【車止めで一息】
老後の矜持

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか?

”トイレぐらい自分の脚で行って自分で済ませたい” ….自尊心はADLを維持させる、ひとつのエネルギーです。そんなシーンに出会いました。
私は、介護士として、老人ホームで働いています。
そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。
介護/老人ホーム
私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。
なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。
それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。
伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。
詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。
(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。
【車止めで一息】
〔口語自由詩〕
車止めで一息38
老後の矜持
!!!!!!!
「また行きたくなっちゃいました」
「本当に出ちゃいそうなんです」
「これで出ちゃったら、クソまみれになっちゃいます」
「あっ、だから、私みたいな老人を」
「クソ爺って言うんですね、やっとわかりました」
騒々しい貴方様は、どこか陽気。
!!!!!!!
「また行きたくなっちゃいました」
「私はね、出そうになったら」
「サッと出ちゃうタイプなんです」
「私がクソまみれになってもいいんですか?」
「あなたの仕事が増えちゃいますよ!」
屈託のない貴方様は、明るい老人。
!!!!!!!
「これがほんとの」
「クソ婆、ちがった、クソ爺」
「な~んちゃって」
「あ~あ、また行きたくなっちゃいました」
「あ~あ、間にあうかなぁ~」
「靴なんかいいですよ! ああ、出そうだ!」
「杖! 杖!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
リハパンを拒否。
ポータブルトイレも拒否。
今日も独立歩行でトイレへ向かう貴方様。
貴方様の矜持は、
今日も健在だ。
画像はイメージです/出典:photoAC)

詩境

多くの方が、ある日”失禁”されます。ご本人様はとても大きなショックを受けます。
尿失禁ならまだ我慢ができるのですが、便失禁となると、さらに大変です。部屋は便の臭気でいっぱいになり、ご本人様は、触覚、視覚だけでなく、嗅覚によっても心理的に大きなダメージを受けてしまいます。
スタッフは「大丈夫ですよ」なんていうけれども、その言葉が、さらにご本人様の聴覚に刺さってしまう場合もあります。ご本人様は決して大丈夫ではないのです。
なので、多くの方が失禁をきっかけにリハパン着用へと移行していくのです。
この作品の場合は、その直前の様子です。
「俺は自分の脚でトイレへ行くんだ!」という強い自尊心が、この方のADLを維持させているように思われました。ADLが維持できれば、自ずからQOLの維持もしやすくなります。
そして、スタッフは、ぎりぎりまで御本人様の意志を尊重して、行動します。その時の様子を文字に写してみました。
私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。
【参考】

以下は、作品一覧です:ご一読頂けましたら幸いです。
読んでくださり、ありがとうございます。