今、東京都では ”カスハラ防止条例” の制定を目指しているそうです。
カスハラとは、”カスタマーハラスメント” の略語です。
〔カスタマーハラスメント(costomer-harasment):暴言、脅迫、暴行、不当な要求など、それらの著しい迷惑行為や、それらを行う悪質なクレーマーに対して用いられます。これは和製英語です。〕
私は、行政がやっと目を向けてくれたか….、早く制定をしてほしい…..カスハラによって仕事や社会への夢を壊される人たちを守ってほしいと思いました。
なぜなら、私は小売業に40年間従事してきて、カスハラによる被害を受けた他の人たちと同じように、私もカスハラには何度も苦渋を飲まされたからです。
この度は、私のカスハラ実体験と、実際おこなっていたカスハラ対応策についてお伝えしたいと思います。
(画像はイメージです/出典:photoAC/以下、画像は全て同じ)

お客様は神様ではありません
かつて「お客様は神様です」という言い方が流行りました。今もカスハラの意識の中にあるようです。
・「お客様は神様です」
この言葉は、歌手の三波春夫氏が舞台で言ったそうです。でも残念なことに、その本意は伝わらず、商店や飲食店又は営業先のクライアントなどは神様であるというふうに世間に広まってしまいました。
・”三波春夫オフィシャルサイト” では「お客様は神様」という言葉の本意を説明しています。
そして、そこには以下のように記述されています〔以下、引用〕
”三波にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスのことです。また、「お客様は神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい」などと発想、発言したことはまったくありません。”〔以上、引用終わり〕
・また、他にもこの辺りの事情を説明した記事はネットで沢山閲覧することができます。
〔参考記事:「ニコニコ大百科”お客様は神様です”」〕
上記の参考記事にも書かれていますが、お客様は決して神様ではありません。
もちろん、店スタッフも神様ではありません。
そもそも、どちらかに優位性を持たせること自体が間違いなのです。
お客様と店スタッフは、物やサービスをお金を使って対等に取引をする「人と人」です。
なので、お客様と店スタッフの双方に、お互いを尊重し合う気持ちと、それを実践するお互いの心掛けが求められるのです。
あえて申し上げるなら、
お客様は神様になりえる存在ではあります。それは、お客様が店と店スタッフを信頼して頼りにしてくれている場合です。
ただ、考えてみてください。
お客様にとって「店や店スタッフが神様になる」という場合もあるのです。”売っていてよかった” ”取り寄せてくれてよかった” ”私のために工夫してくれてよかった”….. というような場合です。
つまり、客と店スタッフは、持ちつ持たれつつ、対等の関係にあるのです。
カスハラによる「俺は神様なのだからもっと大事にしろ!」は理不尽な主張だと言わざる負えません。
なので、もう一度言いますが、お客様と店スタッフとの間には、お互いを尊重し合う気持ちと、それを実践するお互いの心掛けが求められるのです。
この度は、私のカスハラ実体験をお話します。そしてカスハラ対応策もお伝えします。
そして、カスハラは昔から沢山あったことを知っていただき、再度その本質を探りたいと思います。

2019年のYahooニュースより
モンスターカスタマーの実態
以下の囲みは、私がスクラップしていた記事のひとつです。
2019年、カスハラのことを「モンスターカスタマー」と呼んでいたことが分かります。
そして、モンスターカスタマー対応策(カスハラ対応策)には、毅然とした態度が大事であることを伝えています。

〔以下、引用〕
「少し前にネットで盛り上がった話で、こんなものがありました。ある外資系ショッピングセンターで、「文句をつけてタダにさせよう」という魂胆からか、従業員に粘着質のクレームをつけてきた顧客がいたのですが、これに対して、後から出てきた外国人の支配人が「出て行け! お前は客じゃあない!」と一喝し、「スタッフはお前の奴隷じゃあない、謝れ!」とこのクレーマーに逆に謝罪させたそうです。これにはネット上の多くの人から拍手喝采があがりました」
〔以上:2019.7.9付のYahooニュース ” もはや恐喝!?「モンスターカスタマー」の実態” から抜粋〕
〔以上、引用終わり〕記事は既に削除されております。
私が体験したカスハラ
私は40年間小売業に従事してきました。(実は昨日退職しました/”筆者プロフィール”参照)
そして40年の間に、カスハラ被害を受けた他の方々と同じように、私もカスハラにはとても嫌な思いを沢山させられてきました。
一般職として働いていた頃、そして店の矢面に立たされる立場になってからは店のどこかで発生する度に。カスハラにはその度強烈な印象を受けてきたので、昔のことでも結構よく覚えています。
カスハラ相手に土下座を強要されたことは何度かあります。
そして、カスハラ相手に土下座をしてしまったことは2回あります。
その時私は、カスハラに強要されて土下座をすることがカスハラ対応策の正しい解決方法だと決して思ってはいません。でも ”土下座をすればこの苦痛から逃げることができるんだ” という思いが頭の中でいっぱいになり、冷静さを失っていたのだと、今思っています。
それらカスハラの中には、こんなこともありました。
カスハラは「おまえもこの街で飲んだりするんだろ。見かけたら、ただじゃあおかないからな」と、私を脅かしたのです。(この相手は、後になって前科7犯の暴力団員であることが分かりました)
それから、こんなカスハラにも遭遇しました。
欲しい商品が欠品していて購入できなかったので、予定の作業ができなかったことへのクレームがありました。この時は、夕方になって商品が入荷したので、昼間に伺っていた連絡先へ入荷連絡させて頂きました。すると、そこからカスハラが始まりました。
お客様は、欠品による自身の不利益を主張されたのです。
事前にお客様から承り、お約束していた商品をお約束の日時までに手配できなかったというのであれば、店に非はありますので理解できます。でも、そうではないのです。
「予定の作業ができなくて被害を被った、弁済しろ」というカスハラになりました。
さらに、クリスマスイブの夜に被ったカスハラは、その終わり方がとても印象に残っています。
私がお客様の自宅へお詫びにお伺いした時のことです。私はその客の部屋で夕刻から延々と6時間…..なかば監禁されたようにカスハラを受けました。ああでもないこうでもないと言われ続け、夜の11時になった時です。
隣の部屋から家人らしい女性の声がしました。
「おとうさん、そろそろ止めたら? ケーキ食べちゃうわよ」
その声で、そのカスハラは終わったのです。
先日、これらのことを同じ小売業に従事している友達に話したら「わたしなんか5回も土下座しているわ。2回なんて少ない方よ」と言われてしまいました。そうなんですね、世間に知られていないだけで、カスハラ被害は沢山あるようです。東京都のカスハラ防止条例制定の動きには納得です。
・・・いろいろなカスハラを経験してきました。
その中で特に印象深く記憶に残している事例を、以下にご紹介したいと思います。
なぜ印象に残っているかと言いますと、私が対策を講じて、そこ後、そのカスハラはピタッと止んだからです。なので、参考になるのではと思います。

始まりは1本の電話
ある日曜日の夕方、机の電話が鳴りました。内線です。
代表電話に対応している交換スタッフからでした。
「課長、クレームです」
「フロアーは?マネージャーか主任はいないの?」
「電話、ふさがっているんです」
「了解。じゃあ、私が受けます。回してください」
電話の内容は、店頭での接客不良に関するクレームでした。
接客クレームは、人それぞれに感じ方が異なるという意味において、デリケートな要素を含みます。
私は、お客様がお話されることを、メモをとりながら慎重にお聴きしました。
ただ、聴く限りにおいてはクレームにするほどではないように、私は思いました。
もちろん、それは私の過去の経験に照らし合わせた価値基準。
お客様が感じたことが真実なのだから、お客様のお気持ちを尊重しないといけません。
私は、お客様のお話しの中から当方に落ち度はなかったのかを探しました。
そして、お客様の価値基準に寄り添い、お客様に不快な思いをさせてしまったことについてお詫びを申し上げました。
でも、そのお客様、電話口のお詫びだけでは、収まりませんでした。
そのお客様は、本社のお客様係に電話をして苦情を申し出したいと言いました。
私は了解し、今日は日曜日なので明日にしてもらえるようにお願いをしました。
そうしたら、お客様は、私共の他の店に電話をかけて文句を言うというのです(当時、店は全国に20店舗以上営業していました)。そして、一旦電話を切った後・・・そのお客様は、本当に、他店3店舗に電話をして苦情を述べたのでした。
当然、それらの店舗からは私のところに電話が入りました。「〇〇店で起きたことなんだから、そっちできちんと対応してくださいよ」と、半ば迷惑の様子です。私は、それらの店の担当者に謝りました。
そして、再度お客様に電話をしてお詫びを申し上げ、本社に電話をするのであれば、明日にして頂けるようにお願いをしました。
でも、ご納得いただけません。
なので、私はお客様へ以下のご提案をしました。
「今から私がお客様の所へお伺いして、直接お話するのはいかがでしょうか。直接お会いして、お話しを聞かせていただきたいのです。お客様が受けた接客と、お客様が感じていらっしゃるご不満を直接お伺いさせていただきたく思います。そして、私どものお客様への対応と今後の改善内容について、お伝えさせていただきたく思います」と。
でも、私の提案は受け入れてはいただけませんでした。

カスハラである理由
そして、ああでもない、こうでもない・・・お客様は私の提案には耳を貸さず、話の内容は当初申し出のあった接客対応からは離れていきました。そして、電話でのやりとりは延々と続き、時間だけが過ぎていきました。
その時には既に、最初に申し出された接客クレームの件への言及はありません。
お客様の主張は「あなたの対応が悪い」に集中していました。
そして、事あるごとに、
「謝りなさい!」
「なんとかしなさいよ!」
「そんな謝り方じゃあだめよ!」
「私の気持ちをどうしてくれるのよ!」
「この時間がもったいないでしょう!」
「あなたが私に迷惑かけていること、分かっているんでしょうね!」
・・・の繰り返しです。
そして、一旦電話を切ると、また他店に苦情の電話を入れるのです。それを数回繰り返しました。私はその度、電話を入れられた店舗に、今受けているカスハラの内容を伝え、謝りました。
お客様は、まるで、
私が困っているのを、
面白がっているようでした。

カスハラへの対応
怒鳴って一喝!
・・・そして私は・・・、ついに言いました、電話口のお客様へ向かって。
「いいかげんにしないか!」
そしてさらに、声のボリュームを上げて、声のトーンは下げて、次のように伝えました。
「これ以上の申し出は受けられません。これ以上、同じことをされるのであれば営業妨害と認識してしかるべき機関に訴えます。私をこれ以上、おもちゃにしないでください!迷惑です」
私のこの二言で、お客様は押し黙ったように無言になりました。
そして少しして「はーい、わかりました」と言って、お客様から電話を切りました。
それから翌日以降ずっと、私にも、他店にも、本社にも電話はありませんでした。
・・・実は、これには後日談があります。
その後日談が、実は、このお客様が明確なカスハラであったという証拠でもあるのです。
それから、半年後・・
私の机の電話が鳴りました。内線です。交換からでした。
「課長、クレームです。〇〇さんという女性の方からです」
「〇〇さん? ( ああ、あの時の、あのお客様かな・・・)はい、つないで下さい」
「もしもし、お電話変わりました。私、お客様の苦情をお聞きしております、カトウでございます」
と話したら・・・、
な、なんと・・・
「あら、その声、あの時のカトウさん? なら、やめておくわ」
と言って、お客様から電話を切ったのです。
その電話の相手は、半年前のカスハラの主でした。
それから、数カ月・・
そして、また、同じようなことがありました。
「あら、また、カトウさんなの? あなた、まだいるの? じゃあ、やめておくわ・・」
ツーツーツーツー
*
私はこう思っています。
このお客様、クレームをつけること自体が目的で、その行為によって心の中にある何かがお客様なりの理屈でもって解決していったのでしょう。
それは、ひとつに”憂さ晴らし”のような快感だったのかもしれません。
でも、私が相手では、それが成し遂げられないことが分かり、私を相手にクレームをつけることを諦めたのだと思います。

理不尽なクレーム。
一度それに出くわしてしまうと、そのスタッフ自身には何の落ち度もないのに、そのスタッフはその仕事についていること自体に嫌悪を覚えてしまうことがあるようです。そして退職してしまう。それは、そのスタッフ本人にとっても、社会にとっても、不利益を生じさせてしまう、とても不幸なことです。
理不尽なクレームは悪ですね。
カスハラ対応策
私の場合、そして勤務先であった店内での共有事項として。
1.カスハラには毅然とした態度をとること。
先に書いたように、カスハラ対応策のひとつは毅然とした態度を見せることです。
ただ、そうしたときに….もっと怒鳴り出したらどうしよう…..という想像が、毅然とした態度を躊躇させます。なので、たとえそうなっても大丈夫だという安心を予め用意しておくことが必要です。
カスハラ対応策は、店の全スタッフとの共闘であり、上長や本社が助けるべきであり、そして次に述べる外部機関の存在が大切になってきます。
2.管轄の警察署の担当と仲良くなっておくこと。
毅然とした態度・・・とは言っても、なかなか勇気がいります。なので、店の主要なポストについて、クレーマー(カスハラ)の矢面に立つ立場のスタッフには、管轄の警察署に出向いて、担当の警察官と面識を交わしておくことをお勧めいたします。それだけでも、気持ち的に心強いです。
具体的には管轄の警察署へ行き、過去のカスハラ事例を話して、再度起きた時には助けて下さい….と伝えるのです。そして、自身の名刺を渡すなどして自分の身分を明らかにして、警察内の相談連絡先を確認して下さい。私はかつてそうしていました。
3.カスハラを受けた時の対応手順を決めておくこと。
カスハラを受けた時の対応手順、これを全てのスタッフと共有し「みんなで解決するから大丈夫」という認識を組織として確立しておくことが大事です。
そこには、”上に立つ者はカスハラから部下を守る” ことを一筆入れてほしいですね。店の内部で「おまえがなんとかしろよ」という姿勢は最悪です。
カスハラ対応策のマニュアルを作成して用意している会社も多々あるようですが、肝心なのはそれが機能するか否かです。模擬訓練があってもいいのかもしれません。
カスハラ対応の問題は視野を広げて、職場環境の安心安全、労働安全衛生の問題でもあることを、現場の管理職も本社スタッフも認識して、カスハラ対応策を与えていってほしいです。
他社事例も含め「カスハラの防止と発生時の対応について」定期的な勉強会をして、いろいろな事例に、たとえ机上でも触れておくことが精神的な後ろ盾になります。
4.俯瞰する勇気
クレイマー(カスハラ)から、ずーっと長い時間言われ続けていると・・・私が悪い・・・という思いにだんだんなってしまいがちです。そして・・・私がなんとかしないと・・・という考えに頭の中が支配されていきます。
そうなる前に、いいやたとえそうなったとしても、「同僚が、上司が、警察が、みんなが助けてくれる」「みんなが客観的な判断をしてくれる」と思って、置かれた状況を外から俯瞰してみることです。
普通に理不尽に思うことは、他の人がみても理不尽なのです。カスハラ相手にひとりで抱え込まず、大局的な視野を持って状況を俯瞰してみること。この心の作業によっても、カスハラに対して毅然とした態度をとりやすくなります。
もちろん、店のスタッフ全員でクレーマー(カスハラ)に対応しているスタッフを守るということが最も大事です。
そして、警察の相談窓口を知っておくこと、大きな組織の小売店ならば会社が契約している弁護士の存在を知っておくこと、そういう知識も少なからず精神的な盾になります。
以上が、すぐに行動に移せる対応策です。
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お客様は神様ではありません。
店と客の関係は、お互いがいつも冷静さを保ちつつ、お互いの立場を理解しながら、お互いの立場を尊重しあって、公平な目線で評価できるようになっていきたいものです。
お客様の目的は「いいお買い物」、店の目的は「いいお買い物をしていただく」ことにあるのですから。
そうすれば、お互いに「ありがとう」と言えて、社会はもっと明るく穏やかになると思います。

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身の回りの、ちょっと疑問?….に思ったことや、発見したことを記事にしています。記事は今後増やしていく予定です。