百人一首。難解と思われる和歌でも、英訳を読めば理解が進みます。大事なのは歌の心を味わうこと。英訳は古文鑑賞の楽しさを助けてくれます。
和歌の心も英語も
同時に学べます
(画像はイメージです/出典:photoAC)
今回のテキスト/恋歌・人生歌
第82番歌
道因法師(1090年~没年不明)
思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり
〔以下引用〕
I love her in secret but she wouldn’t know it,
and this love has been annoying me for years.
Although I’m still alive,
yet my tears can’t endure the bitterness and run down.
〔引用終わり〕
〔引用元〕”小倉百人一首英訳” より
Copyright (C) SIG English Lounge All Rights Reserved.
http://www3.to/kyomi/database/h1/
〔※難解だと思われている古文が、こんなにも分かりやすい英語で表現できるんですね〕
〔参考/日本語訳〕引用元:Google 翻訳)
私は密かに彼女を愛していますが、彼女はそれを知らないでしょう、そしてこの愛は私を何年も悩ませてきました。 まだ生きているのに、辛さに耐えきれず涙が流れてしまいます。
※筆者によるオリジナル解説です。英語の意味については、Google翻訳などから引用しました
最も注目したいフレーが、冒頭の「思ひわび」だと思います。
「思ひわぶ」
わびしく思う。物思いに悩む。悲しくつらい思いをする。
〔参照/角川必携 古語辞典 全訳版(発行/角川書店)〕
そして、「思ふ」だけを取り上げると、
古語の「思ふ」には以下のように複数の意味があり、その中には「恋しがる、愛する」という意味があるのです。
〔以下引用/引用元:角川必携 古語辞典 全訳版(発行/角川書店)〕
①考える。判断する。
②願う。希望する。
③予想する。予期する。
④過去を振り返る。回想する。
⑤心を悩ます。心配する。
⑥恋しがる。愛する。
〔以上、引用終わり〕
つまり、冒頭の「思ひわび」の一言で、
”愛する人がいるのだけれども成就できない状況にある辛い恋” が
想像されるのです。
だから、
I love her in secret but she wouldn’t know it,
なのです。
*
「思ひわび」
⇒ this love has been annoying me for years.
「この恋は、わたしをもう何年も悩ましてきた」
現在完了進行形を理解するのに最適ですね。
for yeares と続いていますが、has been ~とすることで「今日この日まで、ずっと私を悩ませてきた。そして今も悩んでいる」という意味がさらに強調されます。
【annoy】
悩ませる、いらいらさせる。
*
「さても命はあるものを」
⇒ Although I’m still alive,
「憂きにたえぬは涙なりけり」
⇒ yet my tears can’t endure the bitterness and run down.
yet を使うことにより、ただ「我慢できない」だけでなく、「今もまだ我慢できずに」という時間の経過が感じられます。つまり、涙がこぼれ落ちるのを我慢できないのは今のことだけではなくて、たびたびあったという意味が伝わってきます。
つまり、この歌は、
一般的な評価では恋歌に数えられていますが、
長い人生の時間軸を生きてきた ”人生歌” であるとも理解できるのです。
作者は、長い間 ”実らない恋” に耐えてきたのです。
その理解のポイントは以下にあります。
〔辛くて死にたいと思っても、頑張って生き長らえてきた〕
けれども・・・
〔涙は、自分の意志では我慢できずに流れ落ちていく〕
「恋の辛さ」が「人生の辛さ」と重ねっているように感じます、きっと辛い恋を今日の今日まで、ずっとひきづっているのでしょうね。これは、そういう歌です。
*
そしてさらに・・・、
詩歌の解釈には、直訳をきちんと理解しつつも曖昧さを大事にして、いろいろな状況を想像しながら楽しむ解釈の方法があります。
それが、次に記します【意訳(free translation】です。
以下に【直訳】と【意訳】を並べます。【意訳】の楽しさにも触れて下さいませ。
(画像はイメージです/出典:photoAC)
【参考】
※ 直訳:書籍やネットなどで多々公開されている一般的な解釈です。これは、そのうちのひとつです。
[以下引用]
” つれない人ゆえに思い悩んでいても、それでも命だけはつないでいるのに、そのつらさにたえられないのは涙で、とどめなく流れ落ちたのだった ”
(引用元:ちくま文庫/百人一首/2010年8月20日第15刷)
※ 意訳〔free translation〕は詩歌を味わう一番の楽しみだと、私は思っています。
<※意訳では言外に含まれているであろう作者の思いも言葉にしています。それが意訳の楽しさであり、意訳の魅力です>
*
私は、貴女のことを、ずっと思い焦がれてきました。そして、今この時も貴女のことが好きで好きでしかたがありません。
なのに、貴女に私の気持ちは伝わらない・・嗚呼、辛い。
いっそのこと死んでしまいたいとも思いましたが、もしも死んでしまったら貴女にあうことができなくなってしまいます。
だから、こうやって、私は今日まで命をつないできました。
私は、貴女を愛しています。
嗚呼、でも叶わぬ恋・・・どんなに我慢をしても涙があふれてきます。
神様、何年かかってもいいので、どうか、この恋が成就しますように、お願いいたします。
(意訳:かとうあきら/筆者)
【私見】
解説でも書きましたが、”成就しない辛い恋” を抱えたまま、もう何年も生き続けてきたことが伺えます。
そのことが、以下の英訳からも伝わります。
this love has been annoying me for years.
I’m still alive,
yet my tears can’t endure ~
つまり「思ひわび」は積年の思いなのです。
積年であるということは、そこを長い間生きてきたわけですから、人生の悲哀を詠っていることにもつながるのです。
単なる恋歌ではない、という意味がそこにあります。
今も成就していない…..つまり、今も愛している・・・そういう恋って、ひとりひとりの心の中に、密かにあるのかもしれませんね。
でも・・きっと、成就なんかしません。
なぜって、成就しないから「思ひわび」なんです。・・・ああ、悲しい
*
以下では、百人一首に詠まれている共通の語句を中心に分類して、解説しております。ご一読いただければ幸いです。
ご一読くださり、ありがとうございます。