介護の詩/食卓:一日の始まり/老人ホームでの息遣いと命の灯23/詩境


【車止めで一息】

食卓:一日の始まり

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

咀嚼する口元は、老いも若きも、あまり変わりはありません。口には、そこだけに何か別の命が宿っているように感じられます。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息23

食卓:一日の始まり

スープは、コンソメオニオン。

サラダは、小さな角切りトマトに七色ビーンズ。

白い磁器の丸い平皿には、

レタスにポテトサラダを添えたハムエッグ。

そして薄めのトースト、バターと苺ジャム。

円卓に集う、いつもの顔、顔、顔、顔

おはよう、おはよう、おはよう、おはようさん。

今日も生きていた?

来ないから死んじゃったのかと思っちゃった・・・

笑顔が飛び交う、午前七時三十分。

食膳の上をゆっくり動く八本の腕。

四つの手は、箸を持つ、ホークを握る、スプーンですくう。

四つの手は、トーストをつかみ口へと運ぶ。

みんな、ゆっくりゆっくり、動く。

ゆっくり動く・・のだけれども、・・・見るがいい。

四つの口だけは、上下左右に忙しい。

・・・・・

口元だけを見るがいい。

咀嚼する口元の動きだけは、老いも若きも変わらない。

あなた様が、総入れ歯であることも、

あなた様が、自立歩行できないことも、

あなた様には、入浴介助が必要なことも、

あなた様が、認知症を患っていることも、

みんなみんな関係ない。

食べることは生きる基本。

食べて話して、

笑って食べて、

今日も一日が始まる。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

ミキサー食を介助にて召し上がられる方を除いて、人はけっこう間際まで咀嚼力は衰えない….というのが私の印象です。

口は、命を紡いでいくエネルギーを吸収する場所なのです。

わたくしは、その瞬間を捉えたくて、これを書きました。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】 「催促」

介護の詩/「催促」/老人ホームでの息遣いと命の灯22/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございました。