介護の詩/食卓:昼になれば/老人ホームでの息遣いと命の灯24/詩境


【車止めで一息】

食卓:昼になれば

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

日の三度の食事。その様子を見れば、その方の元気度がわかります。そして、口には口だけの命が宿っているようにも感じます。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息24

食卓:昼になれば

昼になれば、

お麩と三つ葉のお吸い物。

桃色小鉢には、細切り人参を和えたひじきの煮物。

濃紺色の七寸皿には、

菜の花を付け合わせにした鰆の西京焼き。

そして白いご飯、デザートの密柑もあるぞ。

朝も集まったいつもの顔。

こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは。

おそくなっちゃった・・・

名前は知らない、聞いても覚えない。

けれども顔は知っている。

食膳の上に繰り出す八本の腕。

ゆっくり、ゆっくり、動き出す。

そして開く、口、口、口、口。

鰆も、白いご飯も、煮物も、蜜柑も、

口は、全てを食い尽くす食欲の正面玄関。

それは、生きる本能、正直な姿。

口元だけを見るがいい。

四つの口は、みんな上下左右に忙しい。

あなた様が、降圧剤を服用していることも、

あなた様が、帰宅願望を持っていることも、

あなた様が、リハビリパンツをはいていることも、

あなた様が、肋骨に二本ヒビが入ったままでいることも、

みんなみんな、食べているときは、関係ない。

食べることは、生きること。

生きることは、食べること。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

これは前作「食事:一日の始まり」の続きです。

食事の様子は、その方のその日の調子を伺える大切なシーンです。そして、その口元の様子だけを見れば、口には口だけの命が宿っているように、私には見えるのです。

そして、それは「生きている瞬間」でもあります。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】 食卓:一日の始まり

介護の詩/食卓:一日の始まり/老人ホームでの息遣いと命の灯23/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございました。