※この頁では老人ホームでの出来事を、そこで働いている介護士が口語自由詩にてお伝えしています。
【車止めで一息 92】
みんな順送り

(画像はイメージです/出典:photoAC)

老人ホームで暮らす、お婆ちゃんお爺ちゃんのこと、
気になりませんか?
少しだけでもいいので気にしてみて下さい。
そこには、人生最期の自分の姿があるかもしれません。

私の勤務先である”住宅型有料老人ホーム”には、介護認定を必要とせず自立生活を営んでいるご入居者様が、全入居者の約2割弱いらっしゃいます。将来の介護生活を見越して、早々と老人ホームでの生活を受け入れている方たちです。
その方たちは、同じホームですれ違う要支援や要介護を必要とする人たちを、どのように見ているのでしょうか。
私は先日、たまたまその思いを知ることができる具体的な場面に遭遇しました。そしてその時、それは言ってはいけないことでしょう? もっと想像力を働かせてほしい! と思い、一方で心がワナワナと震える怒りの感情がわいてきました。この作品は、その時の様子を描いたものです。
ただ、これはとても稀な場面です。このように言い放つ人もいる、皆がそうなのではないと、ご理解いただきたく思います。
*
<覚え書き>
・老人ホームによっては要介護度が一定以上でないと入居できない等、入居資格が必要な場合があります。老人ホームへの入居を検討するとき、入居資格は最初のチェック項目です。
・老人ホームに入居する場合、そこでどれ位の期間過ごすのか?ということについては、想定でも頭に入れておかないといけません。なぜなら費用がかかり続けるからです。経済的に目処が立つ場合にはその限りではありませんが。
・厚生労働省は、特別養護老人ホームの入所者の平均在所期間を約3.5年と発表しています。(資料策定は令和元年10月。以下の参考資料の17ページ冒頭に掲示されています。/このような資料は、あくまで平均であることを忘れてはいけません。平均は平均であって、「個」に当てはまらないことが多々あるからです)
<参考資料>
【 みんな順送り 】
車止めで一息 92
みんな順送り
ここは住宅型老人ホーム。
要支援も要介護も今は必要ないけれども、
先々を見越して入居している方がいらっしゃる。
皆、いつかはそうなると分かってはいる。
それでも心は、
介護をできるだけ遠ざけておきたい、
介護にできるだけ知らんぷりしていたいのだろう。
食事介助のテーブルに目をやり、
貴女様は声に出した。
「あーあ、あんなになっちゃって、大変ねぇ」
実に失礼千万な言い方だ。
人それぞれに事情というものがある。
それを分かろうとしない傲慢さが、
貴女様の口をさらに開かせた。
「あんなふうには、なりたくないわね」
世の中には、
人様の事情や心情を斟酌できない、
無頓着な人がいる。
あんなふうと言ってはいけない。
それは明日の自分を映し出す鏡だと、
教えなくては、
いけないのだろうか。
知っておいてほしい。
介護をうけざるおえなくなったとき、
誰もが口にする言葉。
“ああ、こんなつもりじゃあなかったのに・・”
みんな順送りなのだ。
*
<語句の説明>
斟酌(しんしゃく)/相手の事情・心情などをくみとること。また、それによって手加減すること。(出典:明鏡国語辞典 第二版|2010.12.1第一刷|発行:㈱大修館書店)

(画像はイメージです/出典:photoAC)
【 詩 境 】
詩 境
「あーあ、あんなになっちゃって、大変ねぇ」
「あんなふうには、なりたくないわね」
これらの発言を耳にしたとき、私は思いました。
”おいおい、それを言っちゃあ、おしまいよ”・・と。
同時に、人様のことを斟酌できないことに、とても腹立たしくも感じました。
老人ホームは、その中でひとつの社会が形成されています。老人ホームで心地よく生活していくためには、そのような側面も予め心得ておかなくてはいけません。
<言葉>
「それを言っちゃあ、おしまいよ」
映画「男はつらいよ」の中で、フーテンの寅さんがよく口にしていた言葉です。
円滑なコミュニケーションを相手によって壊されたときに、やんわりと相手をたしなめるときに使われました。

(イラストはイメージです/出典:photoAC)
【今までの作品一覧】
以下にございます。
”介護の詩/老人ホームで暮らす高齢者の様子/「車止めで一息」/詩境”
人生最期の自分の姿が、そこにあるかもしれません。