介護の詩/「帰宅願望Ⅱ」/老人ホームでの息遣いと命の灯19/詩境


【車止めで一息】

帰宅願望Ⅱ

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

何故ここにいるのか、本人様は理解できていないし、家族も分からせる努力が途切れたまま。そのような状況で入居される方は、少なからずいらっしゃいます。

私は、老人ホームで介護士として働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息19

帰宅願望Ⅱ

「おたくは、十時の体操、出るの?」

「わたし? 家に帰るから出ませんよ」

「あら、家に帰るの? いいわねぇ~ホホホホホ」

貴女様もニコニコ顔、

箸を動かしながら嬉しそうな顔をした。

朝食が終われば出発の時間だ、ここを出る。

部屋に戻り、クローゼットを開ける、貴女様。

着替えを入れた白いポリ袋を両手に提げて、玄関へ急ぐ、貴女様。

職員の居る部屋を、嬉しそうに元気よくノックする、貴女様。

「玄関を開けてください」

「ひとりでは外出できませんよ」

「じゃあ、待ってます。娘が迎えに来てくれるんです」

朝昼晩、ロビーのソファで今日も待っている、貴女様。

娘が迎えに来てくれるのを、今日も待っている、貴女様。

どれだけ待とうと、待つ時間はぜんぜん厭わない、貴女様。

「娘がね、お母さんしばらく、ここにいてねって、云ったんですよ」

「娘が迎えに来たら、すぐ帰れるように準備しているんです」

昨日待っていたことは忘れて、今日も待っている貴女様。

「お母さん、待った? ごめんね、遅くなって」と言って、

娘が扉を開けて迎えに来てくれるのを、

ずっと待っている貴女様。

昨日待っていたことは忘れて、

今日も待っている貴女様。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

前作「帰宅願望Ⅰ」の続きです。

二行目の「わたし? 家に帰るから、出ませんよ」を口にした〇〇様の表情は、本当に嬉しそうでした。

私は、その表情を見て、一時帰宅されることになったんだな・・と、本気で思ったくらいです。

でも、それは、ご本人様だけが思っていることでした。

〇〇様は、朝食を終えると、嬉々として部屋に戻り、衣類の詰まった大きな袋を両手に提げ、嬉々としてエレベーターから降りてきました。そして、嬉々としてロビーへ向かっていきました。

私は、そこに感慨を覚え、その一瞬を捉えたく、この詩を描きました。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】 「帰宅願望Ⅰ」

介護の詩/「帰宅願望Ⅰ」/老人ホームでの息遣いと命の灯18/詩境

介護の詩/「帰宅願望Ⅲ」/老人ホームでの息遣いと命の灯20/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございました。