【車止めで一息22】
催促

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか?

認知症の方の「ご飯はまだですか?」:この質問への対応工夫は、スタッフがその方への寄り添う気持ちを醸成させる、ひとつの道筋だと、私は思っています。
私は、老人ホームで介護士として働いています。
そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。
介護/老人ホーム
私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。
なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。
それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。
伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。
詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)
高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。
【車止めで一息】
車止めで一息22
催促
口元だけを見るがいい。
動く、動く、動く。
回る、回る、回る。
次は卵焼き、
ご飯を入れたら、次は味噌汁だ。
口元だけを見るがいい。
噛む、噛む、噛む。
食べる、食べる、食べる。
おかずを平らげ、
茶碗を空にしたら、ごちそうさま!
口元だけを見るならば、
こんなにも元気よく食事をする貴方様には、
行ってきまーす! 出勤姿がよく似合う。
口元だけを見るならば、
衰えない咀嚼力で食器を空にする貴方様には、
病気のビの字も無い、健康の二文字がよく似合う。
なぜ?
なぜ神様は貴方様から奪ったんだ!
就寝時刻を過ぎた頃、
貴方様からのナースコール。
ピッチの向こうから聞こえてくる困惑の声。
「すみませーん、ご飯は、まだですか?」

(画像はイメージです/出典:photoAC)
詩境

食事はとっくに済んだのに「ご飯は、まだですか?」と尋ねる認知症の方々。
「〇〇さん、もう食べましたよ。忘れちゃったんですか?」
ほとんどの場合、スタッフはそう言って、その方を追い返してしまいます。
でも、もしも私が当事者だったら、このように言われたいなぁ….と思います。
「〇〇様、もう召し上がりましたよ。でも、もうお腹がすいてしまったんですね? 食欲があるっていうことは、健康だっていう証拠でいいですね。〇〇様、明日の朝ご飯、沢山召し上がりましょうね、〇〇様」
こう言われれば、否定されずに、コミュニケーションはつながります。なので、しょんぼりしなくて済みます。
介護には〔寄り添うことが大事〕と言われますが、ご飯を済ませた方から「ご飯はまだですか?」と言われて、「食べたの忘れちゃったんですか?」と返すのは、その方に寄り添ってはいないんだろうなあ・・と思います。
「寄り添う」という行為を、いつも再考しながら介護という職責を果たしたい。そういう自己研鑽を忘れないようにと思って、これを書きました。
私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、看取りも行っている施設です。
【作品一覧】
ご一読いただけましたら、幸いでございます。
介護の詩/老人ホームで暮らす高齢者の様子「車止めで一息」/詩境
読んでくださり、ありがとうございます。