介護の詩/身体は魂を運ぶ/老人ホームでの息遣いと命の灯21/詩境


【車止めで一息】

身体は魂を運ぶ

〔魂が集まる午前七時のダイニングルーム〕

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

介護の仕事をしていると【身体は心を宿す乗り物でしかない】ということがよくわかります。この詩は、私の目に映り私が感じている、身体が魂を運んでくる様子です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、人々が老いて、不帰の人となっていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息21

身体は魂を運ぶ

 〔魂が集まる午前七時のダイニングルーム〕

車椅子から両脚を垂らし、

足の裏で、ちょこちょこと、

床を後ろに、可愛く蹴りながら、やってくる。

ちょこちょこ、

ちょこちょこ、

ちょこちょこと・・・

歩行器のハンドルを握りしめ、

両脚を、そろりそろり、

少し前へ、少し前へ、押し出しながら、やってくる。

そろり、

そろり、

そろそろと・・・

杖を頼りに傾く身体を支え、

両肩を、ふらり、ふらり、

右に左に揺らしながら、やってくる。

ふらり、

ふらふら、

ふらふらと・・・

曲がった背中を天井にさらし、

やせた両脚を、じわり、じわり、

押し出しながら、やってくる。

じわり、

じわじわ、

じわじわと・・・

運転するスタッフに身をまかせて、

座ったままの瞬間並行移動、サー。

快速急行は、みんなを縫うようにして、やってくる。

ヒュンヒュン、

サーサササ、

サササササ。

身体は乗り物。

乗っているのは魂。

七十余年、八十余年、九十余年、百一歳・・・

みんな一生懸命に生きてきた。

みんな疲れている。

そんな疲れた魂を、

みんな思い思いの方法で運んでくる。

ちょこちょこ、ちょこちょこ、ちょこちょこと・・・

そろり、そろそろ、そろそろと・・・

ふらり、ふらふら、ふらふらと・・・

じわり、じわじわ、じわじわと・・・

サーサササー、サササササ・・・

身体にご飯を食べさせ・・・そして、

魂を維持すれば、あとは身体におまかせ。

魂が機嫌よければ、それでいい。

食べることが生きること・・・さあ、朝ごはん。

今日も一日が始まる。

おはようございます!

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

介護の仕事をしていると【身体はただの入れ物】【身体はただの乗り物】・・なんだなぁ…と、感じるときがあります。

そして、そう感じて、そう思うことで、状況の客観的な把握、問題が起きた時の対処方法や課題の認識がしやすくなるのです。

一晩明けた朝のダイニングルームの様子は「さあまた一日が始まります」という無意識の希望が垣間見えるとき。

だからでしょうか….. 昼よりも、夜よりも、魂が運ばれてくる様子を、より強く感じることができるのです。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】「帰宅願望Ⅲ」

介護の詩/「帰宅願望Ⅲ」/老人ホームでの息遣いと命の灯20/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。