月を詠んだ和歌/百人一首36/夏の月/雲に宿る月/夏の夜はまだ宵


日本の有名な歌集「百人一首」に収められている和歌の中から、「月」を詠んでいる和歌をご紹介いたします。

百人一首/第三十六番歌

この歌、いろいろな解説書を読むと興味深いことに出くわします。

この歌の作者である清原深養父(きよはらのふかやぶ)は、枕草子を著した清少納言(966年頃~1025年頃)の曾祖父(ひいおじいちゃん)だということです。

「春はあけぼの」で始まる枕草子の冒頭には、春夏秋冬の趣が短い文で綴られています。

そして夏は…というと「夏は夜。月のころはさらなり」と清少納言は書き表しました。

「夏は夜。月のころはさらなり」(枕草子の冒頭部分より)

〔意訳〕夏は夜が一番趣がある。月が出ていて明るい満月の頃なら、その趣の深さは言うまでもないくらいにいい。

* * 歴史を彷徨い遊ぶ * *

IF~

以下の問いについて、もしも清少納言が曾祖父を好いていたとすれば、次のような推測ができます。

推測

清少納言は”夏の趣”を表現しようとしたとき、ひいおじいちゃんが詠んだ歌(この「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを~」のこと)を思い出しました。

そして、もしも「夏」、「夜」、そしてさらに「月」のことを書いたら、 ”ひいお爺ちゃんが、あの世で喜んでくれるかもしれない” と考えたのかもしれません。

”ひいお爺ちゃんが、あの世で喜んでくれるかもしれない” いう思いが、清少納言の気持ちを後押ししたのです。その思いが枕草子に「夏は夜。月のころはさらなり」と書く、清少納言の動機付けになったのです。

さらに・・

IF~

以下の問いに対して、もしも百人一首の選者である藤原定家が枕草子を高く評価していたとしたら、もしも藤原定家には小倉百人一首を際立った歌集にしたいという強い思い(欲)があったとしたら、次のような推測ができます。

推測

藤原定家は百人一首に、才能豊かな紫式部の歌(第57番歌)や小野小町の歌を(第9番歌)選びました。これらは歌が評価されているのは勿論ですが、作者そのものも歌人として評価されていました。また時の権力者であった天智天皇の歌(第1番歌)や持統天皇の歌(第2番歌)も選んでいます。つまり、できるだけ人々の目が百人一首に集まるようにしたい、という意図が垣間見えます。

このことを考えれば、枕草子を著した清少納言と繋がりがある、しかもただの繋がりではない、曾祖父という近親者である人の歌を選んでおけば、それは人々の注目を集める助けになるのではないか。藤原定家はそう考えたのかもしれません。

つまり、歌の評価はもちろんするのでしょうが、藤原定家には ”有名な人の歌を載せれば人目を引くだろう”という意図があったのではないかと推測できます。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

第三十六番歌/現代語訳

なつのよは まだよひながら あけぬるを

くものいづこに つきやどるらむ

(画像はイメージです/出典:photoAC)

宵ながら

「宵」:日が暮れてから間もない頃。

明けぬるを

「ぬる」:「ぬ(完了の助動詞)」の連体形/動作・状態が実現、完了する意を表す。~てしまう。~てしまった。

宿るらむ

「らむ」:推量の助動詞の終止形/目に見えている現在の事実について、その原因・理由をあげて推量する意を表す。

※参照は「角川 必携 古語辞典 全訳版/平成9年初版」によります。

夏の夜は、まだ宵だと思っているうちに明けてしまった。ああ、月はいったい何処に隠れて、宿をとっているのだろう・・・

「自然と会話をしながら、自然の中に溶け込む独りの私。私はもう独りじゃあない」・・といったような感覚なのでは、と私は感じています。

<以下は私の意訳です>

夏、夜になる。

夜空には煌々と輝くお月様。

なんとか世渡りをして、頑張って生きている私だけれども、心の中ではいつもひとりぼっちだ。

でも、今だけは違う。私は、夜空の月を相手に、会話を重ねている。人生のこと、仕事のこと、恋愛のこと、家族のこと・・・。

ああ、気が付けば、さっき夜になったばかりだと思っていたのに、まだまだお月様と話をしたいと思っていたのに・・もう朝だ。なんて、夏の夜は短いんだ。

ああ、お月様がいない・・。お月様は、いったい何処の雲に隠れて宿をとっているのだろう。お月様・・また今晩、話をしようね。それまで、おやすみなさい。

詩歌の世界は自由です。解釈も自由です。学校の試験ではありません。

感じるままに、思うままに、その内容を言葉にすれば、そこに新しい表象が生まれ、詩歌の鑑賞は今よりもっともっと楽しくなると思います。

読んでくださり、ありがとうございます。

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