
百人一首。英訳を読めば、たとえ難解な解釈でも、簡単に理解することができます。
和歌の心も英語も
同時に学べます

(画像はイメージです/出典:photoAC)
今回のテキスト/恋の歌
第50番歌
藤原義孝(954~974)

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

〔以下引用〕
I didn’t afraid of giving my life to see you,
but now I would like to live longer to see you.
〔引用終わり〕
〔引用元〕”小倉百人一首英訳” より
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http://www3.to/kyomi/database/h1/
〔※難解だと思われている古文が、こんなにも簡単な英語で表現できるんですね〕
〔参考/日本語訳〕引用元:Google 翻訳
私はあなたに会うために命を捧げることを恐れていませんでしたが、今はあなたに会うためにもっと生きたいと思っています。
※筆者によるオリジナル解説です。言葉の意味については、Google翻訳から引用しています。

【 afraid of ~】/怖い
引用では、I didn’t afraid of ~と訳されています。この場合、I wasn’t afraid of ~が通常の表現だと思いますが、どちらでも通じますね。
【 惜しからざりし命さえ 】
なぜ命を惜しむのかといえば、怖いからです。”死を恐れる”という観念は普通だと思います。「怖い」から「惜しむ」・・なので「惜しむ」を「怖い」に変換して、afraid of ~ と表現しているんですね。
末尾が「思はざりけり」ですから、I didn’t thought ~で始める表現もあると思いますが、ここでは、afraid of ~を使うとにより、think 以外でも表現できるということを学びたいと思います。
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【 give my life】/命を捧げる
I give my life to yoo. 「私はあなたに命を捧げます」が基本構文です。
I didn’t afraid of giving my life to see you. 「あなたに逢うために命を捧げるのは怖くはありません」 つまり「君がため 惜しからざりし 命さえ」なのです。
引用では「命さえ」の「さえ」までは英訳していません。表現しなかったのは、命が一番大事なことは皆が思うことですから、命を話題にした時点で ”ええ!命までも!” という感覚は生まれるだろうという想定があるからだと思われます。
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【would like to~】/~したい(want to ~よりも丁寧な表現)
want to ~/直接的で強い意志を伝えるとき。
would lile to ~/相手に対して礼儀を考慮しながら意志を伝えるとき。
※ would love to ~という表現もあります。
この場合は「もっと~したい…」という強く感情的な欲望が強調されます。恋の歌はラブレターとして用いられていたことを考えると、駄目で元々という考えで、I would love to live longer to see you. という表現を選択して、より情熱的に伝えることも一興だと思われます。
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そしてさらに・・・、
詩歌の解釈には曖昧さを大事にして、いろいろな状況を想像しながら楽しむ解釈の方法があります。
それは、次に記します【意訳(free translation】です。
以下に【直訳】と【意訳】を並べます。【意訳】の楽しさにも触れて下さいませ。
(画像はイメージです/出典:photoAC)

【参考】
※ 直訳:書籍やネットなどで多々公開されている一般的な解釈。これは、そのうちのひとつです。

[以下引用]
”あなたのためには死んでも惜しくはないと思っていた命までもが、逢瀬の叶えられた今となっては、末長くありたいと思うようになったのだった”
(引用元:ちくま文庫/百人一首/2010年8月20日第15刷)
※ 意訳〔free translation〕は詩歌を味わう一番の楽しみだと、私は思っています。

私は貴女が好きで、貴女に逢いたい一心で、貴女に逢うためならばこの命だって惜しくはありません・・と思っていました。
でも、こうやって貴女に逢うことができた今、私は貴女の素晴らしさ、貴女の魅力を益々この胸に感じるようになりました。
私は今、貴女と一緒にいつまでもいつまでも、末長く生きたいと思っています。ずっと一緒に生きていきましょうね、大好きです。(意訳:かとうあきら/筆者)
【私見】

難解な古文の短歌が、こんなに易しい英語で表現できるなんて、これは感動ものだと思いませんか? もしもこれを古文の授業で取り入れたら、古文の授業はもっと楽しく魅力的なものになると、私は思っています。
〔歌の内容、そのものについて〕
「貴女に逢うためなら死んでもいい! でも、貴女に逢った今は死にたくない。だって、死んだら貴女に逢えなくなってしまいます! 私は貴女が好きなんです」と言いたいわけです。
「貴女に逢うためなら、この命を捧げてもいい」・・本当に命を捧げてしまったら、愛し合うことはできなくなります。愛の成就を放棄してしまうわけですから、どこまで本気で言ったいるのか、疑わしいものです。
つまり、この歌の上の句は方便なんですね。私はそう思っています。
でも、方便と思わせないから、この歌は優れているのです。
逢うことによって(愛し合うことによって)、貴女の良さがますます分かるようになりました。明日も明後日も、ずっと貴女と一緒にいたいんです〔愛し合いたいんです〕・・明日もデートしましょうね〔明日もおじゃましますね〕。・・・と伝えたいのです。
〔平安時代、夜になると男は女の家へ通いました/参考:通い婚〕
つまり、よくよーく考えれば、この歌は欲望を前に出し切った情熱的な歌だという評価もできるのです。
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百人一首には「思ふ」や「思ひ」という言葉を詠んでいる歌が20首あります。5首のうち1首なのだから、多いですね。
どんな歌なのかな? 共通する特徴はあるのかな? と思って読んでいたら、あることを発見しました。それらの歌の英訳を探ってみると、I think ~(名詞は thought)だと思っていたら、必ずしも I think ~(名詞は thought )ではないんですね。
実は、そこが詩歌の面白さなんです。
実は、「思う」「思ひ」というひとつの言葉をとりあげても、いろいろな解釈ができるんです。
だから、それを英訳すると I think ~ (又は thought )以外の表現も多々出てくるわけです。
この度は、百人一首の中から「思ふ」という動詞(又は「思ひ」名詞)を詠んでいる歌の英訳を紹介しながら、その歌の心に触れていきたいと思います。
なので、この頁からは、短歌の心も、英語も、同時に学ぶことができます。
なお、以下の①②の項目につきましては、以下の記事を参照してくださいませ。
・百人一首/英訳/逢ひ見ての後の心にくらぶれば/短歌も英語も学ぶ①
①〔概論〕詩歌を英訳して鑑賞する理由
② 百人一首を英訳で鑑賞する【理由】【記事の構成】

以下では、百人一首に詠まれている共通の語句を中心に分類して、解説しております。ご一読いただければ幸いです。
ご一読くださり、ありがとうございます。