介護の詩/「おれのめしは、まだか!」/老人ホームでの息遣いと命の灯08/詩境


【車止めで一息】

おれのめしは、まだか!

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか? 

私は、老人ホームで介護士として働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、日々様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息 08

「おれのめしは、まだか!」

その咆哮はいったい誰? 

初めて聞く声。

怒鳴る主は、苦悶の貴方様だった。

貴方様は、歪んだ顔で大の字になり、

貴方様は、背中両腕両手を壁に押し付け、

貴方様は、廊下の壁に、ぴたっと貼り付いていた。

その姿はありえない!

信じられない姿。

部屋にいるはずの貴方様。

車椅子でしか移動できないはずの貴方様。

ひとりで立つことはできないはずの貴方様。

両腕を通しただけのダンガリーシャツが、

壁に押し付けた背中から少しずつ脱げていく。

広げて壁に押し付けた両手両指十本の支え。

苦しく喘ぎながら壁からずり落ちていく貴方様。

それは、まるで刑事ドラマ。

銃で撃たれた主人公がビルの壁にもたれかかり、

ずるずると上体が落ちていくクライマックス。

血が噴き出す背中を壁に必死で支えている。

でも、

今の貴方様から噴き出しているのは、

食欲という本能の凝縮した魂。

欲望がひとつに集中すれば、

人はものすごい力を発揮するものなのだ。

駆け寄ったスタッフに貴方様は唸るように言った。

「おれのめしは、まだか!」

詩 境

あきら

この方は、私が介助の機会を頂いた時から、ずっと車椅子でした。なので、この方が立って、大の字になって、壁に貼り付いているのを見た時には、いったい何が起きているのか、私は全く見当がつきませんでした。

普段は車椅子生活の人が、ある時、立っている。傍に車椅子は無い。介護の職歴の浅い私には、未経験のことでした。

「まるで刑事ドラマ」という比喩を用いましたが、まさしくその通りだったのです。

最後の一行「おれの、めしは、まだか!」も事実です。私は、その瞬間を、どうしても言葉で捉えて表現したいと思いました。

今日のお昼ご飯

(画像はイメージです/出典:photoAC)

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】「コーラが飲みたい」

介護の詩/「コーラが飲みたい」/老人ホームでの息遣いと命の灯07/詩境

介護の詩/「穏やかな一日」/老人ホームでの息遣いと命の灯09/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。