介護の詩/今は昔のこと/老人ホームでの息遣いと命の灯40/詩境


【車止めで一息】

今は昔のこと

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

終末期の母を見舞った子供は前期高齢者。見舞いながら昔日の思いを語ってくれました。私は、街で見かけた若い親子にその話を重ね合わせ、時の流れを感じました。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、“老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息40

今は昔のこと

お迎えのとき、

駆け寄っていく幼子。

ママぁ!

伸びる腕と腕。

握り合う手と手。

ママは笑顔。

幼子も笑顔。

ママは幼子の手を抱いて、

温かい家へ二人一緒に帰っていった。

・ ・ ・ ・ ・

「ママ、きょうのよるごはんは、なあに?」

「〇〇ちゃんの好きなコロッケよ」

「やったぁ!」

こぼれる笑顔。

待ち遠しい家族の団らん。

面会のとき、

駆け寄る娘は前期高齢者。

「お母さん!」

伸びる腕は一方通行。

握るその手は白いシーツの上。

ママ、きょうのよるごはんは、なあに?

・・・と、見上げた娘は、

今は昔。

〇〇ちゃんの好きなコロッケよ。

・・・と、穏やかな笑顔で話してくれたママも、

今は昔。

お迎えに来てくれて、

貴女の手を抱いてくれて、

温かい家へ一緒に帰ってくれた、

あの頃のママは・・・今、

白いシーツ、

ベッドの上。

終末期。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

人生には、人それぞれにいろいろな出来事があり、人それぞれにいろいろな事情を抱えていると思います。

その日、老人ホームで暮らす母親のお見舞いに訪れた娘さんは、既に前期高齢者でした。そして、その方が、見舞いながら「母とは昔よく・・」と昔日の思いを話してくださいました。

その日、私は介護の仕事を終えて、帰り道につきました。そして、とあるスーパーで私の目に映ったのは、幼子が「ママー!」と言いながら若い母親に駆け寄る場面でした。

私は、昼間、母親を見舞った娘さんの話を思い出しました。・・あの親子にも、このような場面がきっとあったはずだ・・・。

そう思うと、目の前の光景と昼間聴いた話とが、重なり合いました。私は、二人が歩んできた人生という長い時間軸を想像し、その中にしっとりとした感慨を覚えました。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。