介護の詩/「励まし」/老人ホームでの息遣いと命の灯43/詩境


【車止めで一息】

励まし

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

スタッフが、時にはご入居者様から励ましをいただくこともあります。介護だけの一方通行ではありません。高齢者様の言葉を有難く頂戴したいと思います。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、”老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息43

励まし

ベッドから車椅子へ移乗。

貴方様の緩んだ両腕両手を、私の両肩へ誘導したけれども、

貴方様の十本の指は、ぐにゃぐにゃっとしていて、蒟蒻のよう。

でも、それは血の通った温かい蒟蒻・・・そして、

私の心には、血の通った温かい、貴方様の言葉。

   *

トイレに連れていってくれるの?

ありがとう。

世話になるねぇ・・・

・・・

若いって、いいなぁ・・・

なんでもできる。

あんたいくつ?

・・・

そんなことはないよ。

六十なんて子供だよ。

まだまだ頑張れるよ。

・・・

人間ってね、

生きているうちが華だっていうけれど、

それは違うね。

人間ってね、

努力できるうちが華なんだよ。

六十五才?

まだまだ努力できるよ。

頑張ってね。

・・・

おわったよ、たくさん出た。

おしり、拭いてくれるの?

ありがとうね、助かるよ、ありがとう。

   *

人生百年なんて関係ありません。

そんなのは、老後を知らない人たちの戯言です。

人間、年をとったら、

丁度いい時に天国へ行くのがいいんです。

それが寿命っていうもんです。

あなたは、

テレビを見たいと思って、

テレビを見るでしょう?

あたたは、

トイレへ行きたいと思って、

トイレへ行くでしょう?

でも、わたしには、

もう、それさえも、できないんです。

わたしのカラダはわたしのものなのに、

わたしの命はわたしのものなのに、

わたしの自由にはならないんです。

だから、

死のうと思っても、死ねないんです。

知っていますか?

死ぬことに近づけば近づくほど、

死ぬことは思うようにはならなくなるんです。

努力なんてできません。

何に努力するんですか?

人生は生きているうちが華だ・・って言うけれども、

それは嘘です。

人生は努力できるうちが華だ。

これが本当です。

若いっていいなぁ・・・

もう一度、

戻りたいよ。

あなた、

頑張ってね。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

御入居者様と心打ち解けて、円滑なコミュニケーションがとれるようになってくると、お爺ちゃんお婆ちゃんは、その心情を吐露し始めてくださいます。

心情の吐露は、その方がリラックスされている証拠なので、介助に取り組んでいるスタッフとしては嬉しいものです。

そんな瞬間の、その方の言葉を並べてみました。訥々と話される様子は、読点と改行で表現しました。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。