介護の詩/生き続けること/老人ホームでの息遣いと命の灯45/詩境


【車止めで一息】

生き続けること

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

軟便を全失禁をされた場合、汚れはシーツの下まで及び、部屋には便臭が充満。ご本人様がそのショックから立ち直るには、相当の時間とケアが必要です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、”老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息45

生き続けること

嬉しい顔をして、

楽しい思い出を沢山話してくれた貴女様。

・・・主人はね、大工だったんです。私はタイピストでした。・・・

・・・二人して沢山働きましたよ。楽しかった。

わたしは頷き、

貴重な話に感謝しながら耳を傾けた。

貴女様の目はいつも笑っていた。

なのに、

その日の貴女様は特別だった。

ベッドの端に座った貴女様。

両脚を無造作に下げて、

両手を太腿の上に投げ出し、

うつむいたまま頑としてそこを動かず、

その目は閉じたままの無言の行。

そして、

うつむいた顔の閉じた目からは、

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ・・

ポツン、ポツン、ポツン、ポツン、ポつポツン・・

太腿のパジャマの桃色に、

みるみるうちに広がっていく涙の模様。

貴女様は泣き続けた。

涙の模様が模様だと分からなくなるまで・・ずっと、

ずっと、泣き続けた。

それから・・・ひと時。

貴女様はゆっくり顔を上げた。

深く息を吸い、

鼻水をすすり、

唾を飲みこみ、

咽喉の奥から唸るようにして、

やっと口を開いてくれた。

「くやしいです。無念です。もう死にたいです」

濡れてくしゃくしゃの枯色顔に、

赤く染まった両目が浮かぶ。

その目は、

悔しさと諦めに渦巻いていて、

真っ赤に腫れていた。

死にたい・・というその目は、

まだまだ止まることのない涙をいっぱい溜めている。

その昔・・・その目は、

キラキラして明日への夢を沢山見ていたはずなのに。

死にたいというその目は、

開いているけど何も見えていない茫然としている。

その昔・・・その目は、

幸せな思いを胸いっぱいにして笑っていたはずなのに。

力を入れて掛布団を抑える貴女様。

貴女様を絶望させた失禁は、

誰にでも起こりえる事情なのだけれども、

貴女様にとって、それは奈落。

貴女様の目は涙と茫然とに侵されていた。

・・・・・

それから一ヵ月。

今日の貴女様は生け花に精を出している。

その目は、

生気を取り戻し、

今日の楽しみを掴もうとしていた。

貴女様は、

介護用品と介護技術と、

介護スタッフの経験と愛情によって、

涙と茫然を、

諦念の中に、

たった一ヵ月で風化させ、

人生という時間軸に新たな延長線を引き、

そして成功した。

貴女様のその黒い瞳は、

唯一無二、貴女様の輝き。

すてきな貴女様。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

「漏れる」程度の失禁を度々経験されると、多くの方が〔リハパンに吸収パッド〕の着用を始められます。

ただ、そういう対策をしていても、排泄物が全部出きってしまう全失禁の場合、排泄物が吸水パッドやリハパンからはみ出してしまう場合があります。その時は、衣類や寝具は排泄物で汚れます。そして、部屋には便臭が充満します。ご本人様は、自分ではどうしていいのか分からず、ただ茫然自失するのみです。

これは、老人ホームで暮らしていなくても、誰にでもあり得る話です。

でも、老人ホームで暮らしていれば、そのような茫然自失を、スタッフが支えてくれます。そしてさらに、ADLだけでなくQOLの維持と向上にも力を入れている施設もあります。

これを読んで頂いている皆様に、もしも老人ホームを選ぶ必要が生じたときには、ADLだけでなくQOLの維持と向上についても取り組んでいる施設を選ぶことをお勧めいたします。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。