介護の詩/終の棲家の最初の頃/老人ホームでの息遣いと命の灯50/詩境


【車止めで一息】

終の棲家の最初の頃

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

老人ホームへ入居したての頃は、皆さんとても緊張されています。そして、家族の意向とは異なった思いを抱いている方はなおさらです。家族様には知っておいて欲しい現実です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、”老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息50

終の棲家の最初の頃

貴女様は真顔で、

今朝の様子を、

ニコニコしながら嬉しそうに教えてくれた。

・・最近調子いいんです。

・・今朝も血圧よかったんですよ。

・・この調子なら来週には退院できるかしら。

ここが終の棲家とは分かっていない貴女様。

ここを出ることに希望を抱いて明るく話してくれた貴女様。

貴方様は必死の形相で、

玄関の扉を開けてほしいと、

イライラしながら怒ったように訴えていた。

・・私はね、

・・会社に行かなきゃあいけないんです。

・・この前からバスが出ていますよね。

自分が自分である証は会社に行くことだと思っている貴方様。

玄関が開くのをキョロキョロしながら待ち続けていた貴方様。

貴女様は平穏な表情で、

一緒に暮らしていた家族のことを、

ペラペラと問われるままに答えていた。

・・私の主人? あら、そういえば、いないわね。

・・死んじゃったのかしら、わかんないわ。

・・ああ、思い出した。タンスの上にいるわよ。

チェストの上のポートレートは部屋の景色と感じている貴女様。

夫を、かつて愛し合ったはずなのに忘れていた貴女様。

貴方様は泰然として、

ここに存在する理由を、

トツトツと落ち着いて話してくれた。

・・こういう所はね、

・・僕たちみたいなのが居るから成り立っているんです。

・・だって、僕が死んだら、あなたの仕事が減るでしょう?

ここにいる理由に納得が欲しくて考えを巡らせている貴方様。

自分の存在が雇用を創出していると力強く語ってくれた貴方様。

貴女様は嬉しそうな面持ちで、

ロビーのソファに座っているワケを、

ワクワクしながら身を乗り出して教えてくれた。

・・娘がね、お母さんしばらく入院していてって、

・・私を置いて帰っちゃったんですよ。

・・娘がもうすぐ迎えに来てくれるんです。

ここを病院だと思い込んでいる貴女様。

毎日ロビーの椅子に座って娘の迎えを楽しみに待っていた貴女様。

どんなことにも、

人はワケを求めます。

ワケがわからないときには自分でそのワケを探します。

そうやって、

人は異なった環境にも自分を馴染ませていきます。

老人ホームに住むワケは、

家族や後見人が思っているワケと、

本人様が思っているワケと、

その間には、

天と地ほどの隔たりがある・・・

という場合もあるのです。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

老人ホームには、自分から進んで入居した人ばかりではありません。「子供に入れられた」とか「子供が心配するから….」とか、そこに躊躇が感じられる入居例には多々出会います。

この作品では、そのような事例も含めて、入居されて間もない方々の様子をとりあげました。お爺ちゃんお婆ちゃんの気持ちは、家族が思っている気持ちとは乖離している場合もあるということを知っていただいきたいと思ったからです。

作品は、詩というよりは、散文で構成されています。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。