介護の詩/介護の仕事・食介/老人ホームでの息遣いと命の灯63/詩境


【車止めで一息】

介護の仕事/食介

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?

私は今、介護士として老人ホームで働いています。

施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

介護/老人ホーム

私はそこで働きながら、人が老いていく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。

そして私は、それらの「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることで、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まると思ったからです。

そしてさらに、それらは、おせっかいかもしれませんが、老後の生き方を考えるヒントになるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

口語自由詩

車止めで一息 63

介護の仕事/食介

私は意見を述べた。

・・〇〇様には食介を付けた方が良いと思います。

・・自分で食べれないこともないのですが、

・・食介をすると沢山召し上がってくださいます。

上長は言った。

・・甘やかしたら自立を忘れてしまいます。

・・お腹が空けば自分で食べれる方ですから。

・・ぎりぎりまで待ちましょう。

私は思った。

・・甘やかす? 甘やかしたって、いいのに。

・・間際まで自立を促す? 〇〇様は本当に望んでいるのかな・・。

・・自立云々よりも、腹いっぱい食べることの方が幸せだと思うけど。

食事介助は見た目より難しい。

誤嚥が怖い。

誤嚥は命に係わる。

嚥下機能が劣っていればなおさらだ。

そしてその日、

私は「もっと食べましょう」と誘いながら食介をおこなった。

・・鶏肉の梅しそ焼きですよ。

・・食べやすいように小さくしますね。

・・ご飯もどうぞ。

・・お口へいれますよ。

大きく口を開けて待つ貴方様。

口に入れたとたんに咀嚼が始まる。

口だけが別の生き物のように動き出した。

口には口の命が宿っているようだ。

咀嚼している時間は長い。

なかなか飲みこむタイミングが見つからない。

味噌汁を勧めれば、

口を半分開いて味噌汁を迎え入れてくれる貴方様。

食膳と貴方様の口との間を、

私の持つスプーンが何度も何度も往復した。

貴方様はその度ごとに何度も何度も口を開けて、

スプーンに盛られた料理を自分の口に迎え入れてくれた。

そしてひと時。

料理が少なくなったその時、

それは突然だった。

咀嚼している口の中のものを飲みこもうとされたその瞬間、

貴方様は、口の動きを止めて顎を上げ、

貴方様は、頭をグワーンと大きく後ろに反らしたのだ。

しまった! 誤嚥か!?

「大丈夫ですか! 〇〇様!」

・・・・・

貴方様の喉仏の動きと、

貴方様の穏やかな表情からは、

口の中のものをゆっくり飲みこんだようだった。

貴方様は、

反らした頭をゆっくり正面に戻すと、

さらに表情を和らげた。

・・・・・

そして、

貴方様は言った。

「ああ、美味しかった」

「お腹いっぱい食べれて幸せだよ。ありがとうね」

間際まで自立を求められて四苦八苦するよりも、

食介をしてもらい食欲を満たす方が、

満足度が高いのではないかと思う。

もうすぐ天国へいくのだもの、

わたしは、

そうしてさしあげたい。

無理した自立は、

身体に毒だ。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

「頑張れば歩けるけれども、車椅子の方が楽なので車椅子に乗っていきます」という方がいらっしゃいます。

その場合、「頑張って歩いて下さい」と言って車椅子の使用を遠ざけるのか、「はい、それでは車椅子で行きましょう」と言われるままにするのか、その時々の判断基準はいろいろな要素が絡み合い明確ではありません。

食事の場合も同じです。

この作品に登場するお爺ちゃんは、口を開けば「もういつ死んだっていいんです」とおっしゃっている方でした。

このような場合には、腹いっぱい食べる幸せを感じていただいた方が、その方の幸せになるのではないかと、私は思いました。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。