介護の詩|ナースコールはSOS|老人ホームで暮らす高齢者の様子

※この頁では老人ホームでの出来事を、そこで働いている介護士が口語自由詩にてお伝えしています。

【車止めで一息 93】

ナースコール

(画僧はイメージです/出典:photoAC)

老人ホームで暮らす、お婆ちゃんお爺ちゃんのこと、

気になりませんか? 

少しだけでも気にしてみて下さい。

そこには、人生最期の自分の姿があるかもしれません。

老人ホームのベッドには、病院のベッドと同じようにナースコールが常備されています。

ご利用者は、緊急時やトイレ介助などを依頼するときにナースコールでスタッフを呼びます。スタッフはPHSを携帯していて、着信時に部屋番号が表示されるので「〇〇様、いかがされましたか?」と受け答えして、お部屋へ急行します。

ただ、入居者様の中には、個人的に抱えている事情と認知機能低下の程度によりますが、ナースコールでスタッフを一日に二十回~三十回…と何度も何度も呼ぶ時間帯を出現させることがあります。

ナースコールによりスタッフが訪室し、申し出たニーズは解決されたにも関わらず、1分と経たないうちに再度ナースコールを鳴らしスタッフを呼ぶのです。それを一日に何度も繰り返します。

そのような場合、その方の表のニーズに隠された本当のニーズを探ることが必要になります。この作品の中では「ニーズのコア(Core/中心、核心)」と表現しました。本当のニーズは人により実に様々ですが、そのさらに根っこにあるどの方にも共通するのは「生への不安」のようです。そしてさらに、認知症を発症していると、本当のニーズを分かりかねることがしばしばあります。

本当のニーズがたとえ分からなくても、介護士はご本人様の安全と安心を維持することが職責であり使命ですので(誠実義務)、日々苦心苦慮を続けることになります。

ナースコール 】

車止めで一息 93

ナースコール

ナースコールを押すあなた様の心はイライラしていた。

 「〇〇様、どうなされましたか?」

 「トイレ」

 「トイレは行ったばかりですよ」

あなた様は欲するばかり、頷くことはなかった。

スタッフがトイレ介助をしても排泄は無い。

膀胱炎も尿道炎もない感染症でも頻尿でもない。

でも1~2分毎のナースコールはトイレコール。

イライラした心は何かに満たされたくて発信を続けた。

ナースコールを押すあなた様の心はグルグルしていた。

 「〇〇様、どうなされましたか?」

 「ご飯は?」

 「食べたばかりですよ」

あなた様は合点がいかず、納得はしなかった。

スタッフは訪室して傾聴し共感を繰り返した。

あなた様の表情は穏やかになった・・けれども、

暫くしてまた繰り返されたナースコール。

グルグルした心は何かに満たされたくて発信を続けた。

ナースコールを押すあなた様の心には不安が渦巻いていた。

 「〇〇様、どうなされましたか?」

 「助けてぇー!」

何事かと、直ぐに訪室するスタッフ。

あなた様は何食わぬ顔をしてベッドに寝ていた。

目に見える助けなければいけないことは何ひとつなかった。

それでも助けてほしいあなた様。

心の何処かに隠された困惑を上手く伝えられないあなた様。

グルグルしている不安は何かにすがりたくて発信を続けた。 

ナースコールはSOSだ。

ただ一言でSOSと言っても、

そこには実にいろいろなSOSがある。

転んだから助けてほしい。

トイレに行きたいから介助してほしい。

そのような分かりやすいSOSばかりではない。

中には対応に苦慮する混乱したSOSがある。

そのSOSは解決しても解決しても発せられる。

一筋縄では解決に向かわない、

実にやっかいはSOSだ。

解決したと思うのはスタッフばかりで、

実は、あなた様の心は解決していない。

発せられる言葉は簡単だ。

でもそれは表のニーズ。

ニーズのコアには動揺や不安が渦巻いている

それは心の渇き。

わけがわからない不安。

具体的な言葉では言い表せない不安。

実は私達が皆持っている、

それは生への不安なのだ。

それらが脳内機能の衰えによるものなのか、

遠慮なく発せられる様子は曖昧模糊としている。

スタッフは疲弊する。

疲弊するけれども介護士。

誠実義務という職責を果たすべく、

今日もナースコールに対応し続ける。

「誠実義務」

”社会福祉士及び介護福祉士法”の第44条の2に明記されています。

以下全文「社会福祉士及び介護福祉士は、その担当する者が個人の尊厳を保持し、自立した日常生活を営むことができるよう、常にその者の立場に立って、誠実にその業務をおこなわなければならない」

(イラストはイメージです/出典:photoAC)

【 詩 境 】

詩 境

ニーズには、「表のニーズ」と「裏のニーズ」があるとか、裏のニーズを「ニーズの核」とか「ニーズの中心」とか「本当のニーズ」とか呼ぶ理解の仕方があります。

それを具体化している代表的な話は以下です。

・DIYショップにドリル歯を買いに来たお客様の、「表のニーズ」はドリル歯ですが、「裏のニーズ」は穴を開けたい…です。穴を開けたいという「裏のニーズ」がドリル歯という「表のニーズ」を生み出しているわけです。お客様は穴を開けたいのですから、店は穴を開ける行為を有償にて承るというサービスを提供する場合もあります。

・結婚することが幸せになることだと思っている人にとって、結婚は「表のニーズ」、「本当のニーズ」は幸せになることです。

・コーラが飲みたい! コーラは「表のニーズ」であり、「ニーズの中心」にあるものは”のどの渇きをいやしたい”です。なので、コーラが無ければ他の飲み物を手に入れるのです。

私が勤務する老人ホームに、ナースコールを連打してスタッフを何度も何度も部屋に呼ぶ方がいらっしゃいました。その方は、「トイレに座らせて」と訴えるので、スタッフは介助にてトイレの便座に座らせるのですが・・、排泄はありません。それを何度も何度も、繰り返されました。

そのよう時、スタッフはその間に他の重大なナースコールへの対応が遅れてしまうことを危惧します。それはスタッフのイライラの始まりです。

何度も何度も同じニーズが発信されるナースコール。

そのようなナースコール対応に大事なことは、”お客様が本当に望んでいることを” 探り当てて、お客様が実は抱えている「本当のニーズ」に対応することです。

介護の仕事には、そのようなコミュニケーションに関わる仕事もあることを知ってもらいたく思い、この作品を書きました。

介護の仕事は一般的に「きつい」「汚い」「危険」が強調されて3Kなどど揶揄されることがあります。でも、それらはさほど負担になることではありません。介護の仕事に最も大事で最も苦慮することは、ご利用者様とのコミュニケーションであると、私は感じています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

今までの作品一覧

以下にございます。

介護の詩/老人ホームで暮らす高齢者の様子/「車止めで一息」/詩境

 

読んでいただけたら幸いです。

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