介護の詩/食卓:夜の集い/老人ホームでの息遣いと命の灯25/詩境


【車止めで一息】

食卓:夜の集い

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

ダイニングルームはコミュニケーションの場でもあります。ただ、食事が始まれば、喋る口は食べる口へと大変身。口はバイタリティの塊です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息25

食卓:夜の集い

おはよう、早いわね。

あら、もう、朝なの? 夜かと思った。

こんばんは、朝からずっとここに居るの?

部屋にいても、することが、ないのよ。

こんばんは、お風呂は入った?

さあ、入ったのかしら、忘れちゃった・・・

こんがんば、ここの席の人は?

さあ・・知らない。

・・・・・

お待たせいたしました、とスタッフの声。

味噌汁はワカメに豆腐。

煮物は切り干し大根。

おひたしはホウレン草。

小鉢は二つ並んでいる夜の膳。

信楽焼の丸皿には、

サラダ菜を添えた豚肉の生姜焼き。

そして茶碗には、

五目炊き込みご飯。

何も迷うことはない。

利き手は箸を持ち、おかずを、ご飯を、

ゆっくりだけれども、掴んで、口へ運ぶ。

そして、口は、咀嚼する。

口の動きは、意識の上に感じることなく、

ただただ、動く、動く、動く。

ただただ、回る、回る、回る。

口元だけを見るがいい。

口は、一生懸命に働いている。

口は、もう何十何年も働き続けているのに、

疲れを知らない、バイタリティの塊だ。

隣の円卓では、

細かく刻んだ一口食の〇〇さんも、

七分粥にミキサー食の◇◇さんも、

その口は、

ただただ、動く、動く、動く。

ただただ、回る、回る、回る。

口には、口だけに宿る命があるようだ。

たとえ義歯を付けていても、

たとえ自分ひとりでは立ち上がれない身体でも、

たとえ自分ひとりでは部屋に帰れない身体でも、

たとえ認知症を患っていても、

口は自然に動き、

口は自然に咀嚼する。

誰にも命令されない、

誰にも管理されない、

好きな順番で好きなように食べることができる、

心地よい自由がそこにはある。

今日も命がつながる、

朝昼晩三度の食事食事食事。

食べることは生きること。

生きることは食べること。

口には、

口にだけに宿る命が、

実は、あるようだ。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

口には、肉や魚、野菜など、いろいろなものが運ばれていきます。そして、口は全ての食べ物を飲み込んでしまいます。

いつかどこかで、機会があれば、人様の食べる口の動きを、じっくりと見てみてください。口の動きだけを見ていると「生き物が何故生きているのですか?」 「生き物は食べるために生きているのです」という問答に納得がいきます。

老人ホームには、ご入居者様の嚥下能力によって、普通食の他に一口食やミキサー食などがあり、中には食事介助を必要とする方もいらっしゃって、食形態は様々です。

でも、食べ物を口に運んでモグモグするという食べる基本は変わりません。それは人間が食欲という欲求を満たし、無意識だけれども命を維持していこうとする基本の姿です。そして、食べるご様子から、その方の心身の様子が伺えます。だから、食事は大事な場面なのです。

その大事な場面を言葉にして伝えたいと思いました。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】食卓:昼になれば

介護の詩/食卓:昼になれば/老人ホームでの息遣いと命の灯24/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございました。