介護の詩/「一億総白痴」/老人ホームでの息遣いと命の灯37/詩境


【車止めで一息】

一億総白痴

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

99歳の方に「すごいですね、もうすぐ百歳です」と話しかけたら、一億総白痴と同じだよと言われてしまいました。その時の話です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息37

一億総白痴

・・・九十九歳。

・・・お誕生日おめでとうございます。

・・・来年は百歳ですよ。

・・・すごいですね。

なにが、すごいの?

なんにも、すごいことなんかないのに。

自分でトイレへ行けなくなって、

人にケツを拭いてもらっているっていうのに。

なにが、すごいの?

なんにも、すごいことなんかないのに。

まだ生き続けろって云うんですか。

クソまみれなんですよ、わたしは。

なにが、すごいの?

なんにも、すごいことなんかないのに。

なのに、

明日も生きろって言うんですか!

・・・これからの時代を、ご存じないんですか?

・・・これからは、人生百年時代ですからね。

・・・〇〇様は、人生百年を実践するんですから、

・・・すごいですよ!

なにを、言いたいんですか?

なんにも、すごいことなんかないですよ。

私にはね、

本当の寿命があったんですよ。

なのに、

その寿命をね、

ただ悪戯に引き延ばされているだけなんですよ。

なんにでも終わりがあるように、

人の命だって終わりがあるんです。

人類がね、生まれてからね、

死ななかった人はいないんです。

わたしもあなたも、

いつかは死ぬんです。

私はね、今ね、

生きたくて生きているわけじゃあないんです。

分かってくださいよ。

・・・・・

生きることと、

生き長らえることとは、

違うんです。

人生百年なんて、

実際の老後をしらない人たちの、

戯言です。

そういうのを仕入れてきて、

偉そうに言うのは、

本当のことを、

なーんにも分かっちゃあいない、

一億総白痴と同じですよ。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

この方の口から「一億総白痴」という言葉が出たとき、ああそれは、大宅壮一一億総白痴化のことだな…と思いました。

一億総白痴化という言葉は、現在(2024年)老人ホームで生活されていらっしゃる80~90歳台の高齢者が働き盛りの頃に出会った流行語です。私は学生時代にこの言葉を知りました。

私は、その方の ”人生百年という呼称を一億総白痴と揶揄する” その発言を聞いて、〔政府やマスコミが人生百年と騒げばすぐに迎合してしまう大衆〕ほんと、それは一億総白痴化と同じだなと思いました。

このように、介助しながら、ご入居様様に直接何かを教わる場合もあるのです。

この事例とは別に、こんなことを口にしていた方がいらっしゃいました。印象深く残っているので、ここに記します。88歳の男性です。

「ここで生きていても、世の中の役に立っていんだよね。早く死んでしまった方が、世の中のためだよね・・・」

そして、私の顔をじーっと見ていました。そして、閃いたように喋り出しました。

そうなんです。このことは社会の構造に関する、とても重要なことです。ただ、現状では雇用が生まれているのに、介護職は敬遠されて傾向にあるようです。そのひとつの要因は給与の低さ。

介護の仕事は、そのように、社会科学に関することも考えさせてくれます。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が、各々住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。