【車止めで一息62】
介護の仕事/清拭

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?

私が最初に介護の仕事に就いた住宅型ではない老人ホームでの出来事です。そこには、要介護度の高い方が多くいらっしゃいました。そこで私は「清拭(せいしき)」を覚えました。
私は今、介護士として老人ホームで働いています。
施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、看取りも行っている施設です。
介護/老人ホーム
私はそこで働きながら、人が老いていく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。
そして私は、それらの「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。
なぜなら、「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることで、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まると思ったからです。
そしてさらに、それらは、おせっかいかもしれませんが、老後の生き方を考えるヒントになるかもしれないのです。
伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。
詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)
高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。
【車止めで一息 】
口語自由詩
車止めで一息 62
介護の仕事/清拭
貴方様を襲った疾病は貴方様から自立を奪った。
貴方様に忍び寄る老化はそれに拍車をかけた。
貴方様はここに来たときから寝たままだった。
貴方様は声もやられ微かに僅かな声を発するだけだった。
貴方様は目で喋り全ての感情を目で伝えた。
貴方様はここに来たときから寝たままだった。
私は貴方様の僅かに残った髪を洗い顔を拭いた。
頭を枕に乗せた貴方様はその間じっと目を閉じていた。
私は貴方様のパジャマの上と肌着を脱がせて肌を拭いた。
頭を枕に乗せた貴方様は顎を引いて私の動作をじっと見ていた。
私は貴方様のパジャマの下を脱がせて下肢を拭いた。
頭を枕に乗せた貴方様は顎を引いて私の動作をじっと見ていた。
私は貴方様のオムツを外して陰部洗浄をおこない新しいオムツを着けた。
顎を引いてその間じっと私を見ていた貴方様は何か言いたそうだった。
でも、私には言葉を選び話しかける余裕はなかった。
ただ、私は貴方様の身体と無言の会話をしながら、
目頭に涙を溜めていた。
貴方様の皮膚は薄っぺらい肉を覆って骨に貼り付いていた。
その皮膚と薄い肉は見た目よりもさらにずっと薄くて、
皮膚を拭いているのだけれども、骨を拭いているようだった。
貴方様のやせ細った身体を拭く私の手に伝わってくる感触は、
理科室の骸骨を撫でているようだった。
ただひとつ違うのは、
貴方様のその身体が温かいということだった。
その翌日、
貴方様のその身体は冷たくなって、
貴方様は遠い遠いところへ、行ってしまった。
その目は、
もう二度と私を見ることはなかった。

画像はイメージです/出典:photoAC)
詩境

「清拭(せいしき)」は入浴に代わる方法です。石鹸、清拭剤、蒸しタオルなどを使って、ご入居者様の身体を拭くケアのことです。
熱がある、体調がよくない、ご本人様が入浴を嫌がっている….、そして終末期に入り、入浴は困難だと判断される場合・・・そのようなときには入浴に替わるものとして「清拭」を選択します。
私は現在「住宅型」の老人ホームで働いていますが、介護の仕事に就いた当初は、要介護度の高い方たちが多い老人ホームでした。そこでは「住宅型」よりも体調のすぐれない方、終末期を迎える方の出現率が高く、自ずから「清拭」の機会も多くありました。
そんな中、やせ細った男性の方の清拭をおこなった時の経験が、この作品の素材となっています。まさか、翌日にお亡くなりになるとは思いもよらず、とても印象に残っている「清拭」でした。
<老人ホームを選ぶとき>
上の文章で分かるのですが、老人ホームによって各々特性があるので、老人ホームを選ぶときには、ニーズに合った老人ホームの選択が必要になります。
・既に寝たきりになっている人には、加齢によるものなのか疾病によるものなのかによって判断は異なると思われますが、住宅型では対応できかねる場合もあります。各施設のサービス内容をきちんと把握することが求められます。
・既に寝たきりになっている場合には、おそらく、特別養護老人ホーム(公的施設、費用は安め)や、24時間介護付有料老人ホームが望まれます。(参考資料:施設の選び方を解説したもの・一例)
【作品一覧】

ご一読いただけましたら、幸いでございます。
読んでくださり、ありがとうございます。