介護の詩/自立喪失後・車止め/老人ホームでの息遣いと命の灯54/詩境


【車止めで一息】

自立喪失後車止め

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

自立されていたのに、転倒をきっかけにして、みるみるうちに自立を失っていく場合があります。そんな時こそ、老人ホームは役に立つ終の棲家です。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々の高齢者の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、”老後の生き方を考えるヒント” になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息 54

自立喪失後車止め

〔1〕

夜が明ける。

地球が回る。

空は悠々と明るくなっていく。

でも貴女様は知らない分からない。

午前6時45分。

館内を流れる朝の音楽。

行き交う介護スタッフ、扉を叩く音、モーニングケア。

朝の音が廊下に響き渡るけれども、

あなた様は寝たままだ。

一人で起きることはできない。

薄暗い常夜灯。

閉じたままの遮光カーテン。

部屋も一緒に眠っている。

・・・・・

いいや、

去年の今頃は、

貴女様も部屋も一緒に起きていた。

地球が回り空が明ける頃には、

一人で起きて灯りを点けて、

一人でトイレを済ませて着替えをして、

一人でベッドの端に腰かけ、

一人でテレビを見やっていた。

貴女様は自立していた。

貴女様は貴女様の自由な心で老後を味わい、

ときには冗談を言って周囲を和ませ笑顔で暮らしていた。

なのに、

無常は突風の如く吹いてきて、

無常は貴女様の自立に困難を与えた。

転倒、骨折、入院、車椅子・・・

そして、

さらに、

容赦なく、

無常は自立に留まろうとする貴女様を苦しめた。

貴女様の認知機能は、

先を急ぐかのように衰えていったのだ。

なぜ?

ただ地球は回っている・・・だけなのに。

なぜ、無常なの?

今はもう、

一人では起きることができない貴女様。

今はもう、

一人ではトイレへ行くことができない貴女様。

今はもう、

一人では水さえ飲むことができない貴女様。

令和〇年〇月、

転倒は貴女様から自立を奪い、

無常はそれに手助けをした。

地球はただ回っていた・・・

だけなのに。

〔二〕

貴女様は今、

車止めに着いた。

人生の最後に訪れる場所、

ここは車止め。

人生のどん詰まり。

どん詰まりだけれども、

ここまで来れなかった人のことを思えば、

どん詰まりまで来れたことが、

素晴らしい。

貴女様は今、

車止めに着いた。

人生の最後に頂ける神様からの贈り物、

ここは車止め。

人生のどん詰まり。

どん詰まりなのだから、

悠々としていればいい。

介護スタッフがあなた様の足りない力を補うのだから、

まだまだ生を楽しめばいい。

ここは、

人生の車止め。

車止めで一息、

ゆっくりしていってほしい。

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

休み明けに出勤したら、同僚から「〇〇さん、昨日救急搬送。転んで、大腿部骨折。入院されたわ」・・・というようなことが、たまにあります。

予想されることはADLの低下です。認知機能が落ちなければいいけれども・・と、思うのですが、それは希望的観測です。退院後は、おおよそ以下の道筋を辿られます。

1.退院後は車椅子を使用。リハビリにより歩行機能を取り戻し、自立生活に戻る。

2.退院後は車椅子を使用。リハビリにより歩行器を使って歩けるようになり、ほぼ自立生活を取り戻す。

3.退院後は車椅子を使用。歩行機能は回復せず、車椅子生活となり、半自立を強いられる。

4.退院後は車椅子を使用。身体機能に加えて認知機能も急に衰えて、自立生活を喪失してしまう。

3と4の場合、自宅介護では困難さを極めますね。そんな時こそ、介護付き有料老人ホームは役にたちます。介護付有料老人ホームは、自立を喪失された方でも残された人生を有意義に過ごせるような設計の上に成り立っているからです。

※ただし、病気などをされた場合、退院後の状態によっては、元居た老人ホームへ戻れない場合もあるようです。その場合は退去を迫られます。それは、病気などにより介護ではなく特定の「看護」が必要となった場合です。

例えば、口から食べることができなくなって”胃ろう”が必要となった場合(お腹に穴を開けた穴にチューブを通して、胃に直接食べ物を流し込む医療措置)、入居されている老人ホームが”胃ろう”に対応していなければ、そこに居続けることはできません。稀な事例ですが、老人ホームを選ぶ時は知っておかないといけない事柄です〕

老人ホームは終の棲家。その先はありません。どん詰まりです。

だから「車止め」なのです。

どん詰まり、車止め・・・

でも、そこには介護に従事している専門スタッフがいます。スタッフは介護を必要とする人の生活を介助するためにいます。だから、悠々として生活していていいのです。長い人生を歩いてきたのですから、他界する前に、休んでいってほしいのです。

わたしは、そう思って介護の仕事に取り組んでいます。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。