介護の詩/「独り言は願い事」/老人ホームでの息使いと命の灯03/詩境


【車止めで一息】

独り言は願い事(◇◇様の独り言)

老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか? 

私は、介護士として老人ホームで働いています。

そして、人が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることは、介護に対する理解が深め、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

【車止めで一息】

※◇◇様の◇◇には、自分の親、親しい人、大事な人などの名前を入れて読んでみて下さいませ。

車止で一息 03

独り言は願い事(◇◇様の独り言)

わたしが家にいたとくは、転んでばかりいました。

家じゃあ、やっかいもんだったんです。

だから、ここに連れてこられたんです。

家がいいに、きまっているじゃあないですか。

でも、しかたがないんです。

わたしがここで思うようになることは、

もう何にひとつ無くなりました。

トイレさえもひとりで行けなくなったんです。

ズボンもパンツも人様に下げてもらっています。

わたしは、苦しいだけなんです。

なのに、あんたは、わたしに、

百歳まであと少しだから頑張って起きて、

朝ご飯を食べろって、尻を叩くんですか?

一食ぐらい食べなくたって、死なないですよ。

あんたは、普通の馬鹿ですか?

今のわたしは・・・目の前に、

扉のない鉄の高い壁が立っていて、

絶対に向こうへ行けないんです。

あんたに、その感じ、わかりますか?

人間生きているうちが華だ、

なんていう言い方があるけれど、

それは違います。

人間努力できるうちが華なんです。

こうなってみて、やっとわかりました。

今のわたしに、

努力できるものは、

何も無くなりました。

思うようにならないことばかりなのだから、

せめて、

死ぬときぐらい、

自分で決めさせてほしいです。

夜、寝るでしょう・・・

そして朝、

目覚めないやつ。

それがいいです。

早く、そうならないかなぁ・・・

詩 境

あきら

朝8時00分、モーニングケアのため居室にお伺いしました。

すると、◇◇様は目を閉じたまま「まだ寝かせておいてよ」と云うばかり。目は閉じたまま、起きてくれないのです。

住宅型老人ホームの場合、起床から排泄・洗面・更衣などの介助はそのほとんどに介護保険が適用されていて、介助する時間は概ね20~30分と決まっています。スタッフには次の訪問先居室が予定されているので、もう少し寝かせねおくことはできないのです。

でも、その日、私はあきらめました。

◇◇様の望み通り、起こさずに、そのまま寝かせてさしあげました。そして、ベッドサイドで、手を握り、起きてもらうつもりはなく、話しかけたのです。

「よく眠れましたか? いい夢、見ましたか?」

そうしたら、◇◇様は、ぼそぼそと口を開き始めました。それが、この「独り言は願い事」の下敷きになっています。

車止まで一人旅

(画像はイメージです/出典:photoAC)

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

【前回公開した詩】「順送り」(〇〇様の独り言)

介護の詩/「順送り」/老人ホームでの息遣いと命の灯02/詩境

☆【次に公開している詩】「穏やかな黒水晶」

介護の詩/「穏やかな黒水晶」/老人ホームでの息遣いと命の灯04/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。