※この頁では老人ホームでの出来事を、そこで働く介護士が口語自由詩にてお伝えしています。
【車止めで一息 032】
救急搬送

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか?

高齢者の体調の急変~救急搬送は想定内? いえいえスタッフも人の子。感情は想定内に留まりません。サイレンの音に心は動揺し、サイレンの音に心は圧迫されます。
私は、介護士として、老人ホームで働いています。
そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。
介護/老人ホーム
私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。
なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。
それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。
伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。
詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。

(画像はイメージです/出典:photoAC)
高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。
【救急搬送】
車止めで一息 032
救急搬送
サイレンの音は脅迫的だ。
全ての安心を否定して奈落へ落とす。
その音が、
遠くから近づいて来る。
その音に、
奈落で顔をもたげた不安が、
どんどん、
どんどん、
どんどん、
大きく大きく膨らんで来た。
・ ・ ・
そして、
すーっと、止んだ。
来た!
その瞬間、
心は最も大きな不安。
脅迫的なサイレンの音は、
もう止んでいるのに、なのに、
私は、全身から、血が引いていくのを感じた。
駄目だ!
〇〇さん!
まだ逝っちゃっあ駄目だ!
十月の誕生日には植物公園へ行って、
コスモス畑の中を一緒に歩きましょうって、
約束したじゃあないですか!
咲き乱れるコスモスの中を行く貴女様、
咲き乱れるコスモスは濃紅色ルージュの色。
貴女様のコスメボックスに眠ったままの、
貴女様のルージュの色。

(画像はイメージです/出典:photoAC)
詩境

老人ホームで暮らす女性のほとんどは、もう口紅はしません。でも、その方は、唇に紅をひくことに生へのエネルギーを傾けていました。
コスメボックスには口紅が数本。
「今日は、どれにしようかな・・」そう口にされるときは体調の良いとき。私は、その方の心身の様子を、口紅への執着度合いで伺い知っていました。
勤務先の老人ホームでは、サポートサービスと云って、介護保険の適用外のサービスを承っており、私は時々その方の車椅子を押して散歩に出かけたものです。・・・そうしてコミュニケーションを繋いでいるうちに、情はすっかり、その方へ移っていました。
その方の身に起きた、突然の体調急変・・救急搬送。私は、その方のコスメボックスを思い浮かべ、その方の口紅の赤い色を思い出しました。
私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、看取りも行っている施設です。
【作品一覧】

ご一読いただければ、幸いでございます。
読んでくださり、ありがとうございます。