【車止めで一息】
特別運行列車:2番線
老人ホームで暮らしている、お婆ちゃん、お爺ちゃんのこと、気になりませんか?
老人ホームへ、本当は入居したくはないのに、家族の思いを背負って入居しようとしてしまう場合があります。そんなとき、本人様の、現実を受容できない不安な心が、自分自身に心理的負荷をかけてしまいます。今回は、お試し入居したけれど6日間で帰ってしまったお話です。
私は今、介護士として老人ホームで働いています。
施設は「住宅型介護付き有料老人ホーム」です。
自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。
介護/老人ホーム
私はそこで働きながら、人が老いて、そして他界していく様子のその中に、様々な「発見と再発見」を得る機会をいただいております。
そして私は、それらの「発見と再発見」を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。
なぜなら、
「ああ、老人ホームではこんなことが起きているんだ・・」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀が深まると思ったからです。
そしてさらに、
これはおせっかいなことかもしれませんが、
介護をする方にとっても介護をされる方にとっても、
老後の生き方を考えるヒント….
それは人生の締めくくり方を考えるヒントに、
なるかもしれないと思ったからです。
伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。
詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。
(画像はイメージです/出典:photoAC)
高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。
【車止めで一息 】
口語自由詩
車止めで一息 67
特別運行列車:2番線
ご乗車前に、いつでも見学できます。
ご不安でしたら、
二~三日、いいえ一週間、お試し乗車をして、
快適な旅の雰囲気を味わい下さいませ。
そして、慎重にご判断くださいませ。
*
あなた様は試乗した。
「へぇ~美味しいですね。毎日こんな感じですか? 栄養満点ですね」
「体操? 自分ではしません。でも、ここに居たら毎日きちんとできますね」
「背中を洗ってもらうなんて、何年ぶりだろうね。気持ちいい! ああ、嬉しい!」
「ここに住もうかなぁ・・・」
*
でも、翌朝のあなた様は別人でした。
「会社に行かなきゃあいけないんです。玄関を開けて下さい」
「ご家族様からは、退職されたと伺っております」
「そんなのは嘘です。さあ、早く、開けて下さい」
あなた様には、
ご家族にも気付かれていない大切な役割と、
それを自負する気持ちが心の支えになっていました。
あなた様が大切にしている役割は、
・・会社に行ってくる。
・・行ってらっしゃい、気をつけて。
・・ただいま。
・・お帰りなさい。お疲れ様でした。
家族に見送られて会社へ行き、
家に帰り、家族に迎えられるということだったのです。
あなた様はその役割を心の支えにしていました。
*
そしてついに、
六日目の夜更け頃、
あなた様は電話で家族を呼んで、
特別運行列車の試乗を終わりにされました。
ご契約の切符、
購入されなくてよかったですね。
認知症の症状はあるようですが、
特別運行列車にご乗車されるのは、
まだまだ時期尚早のようです。
ご家族で支えながら、
時期到来までお待ちくださいませ。
扉が閉まります。
(画像はイメージです/出典:photoAC)
詩境
二人三脚/心の準備
老人ホームへ入居されるときは、本人様とご家族様(後見人様)との二人三脚が理想的です。
普段から先々どうするのか、家族で話題にしておくことが本人様の心の準備になります。心の準備が必要なのは、家族よりも本人様です。
老人ホームの話題には「まだ早いわよ」「私を老人扱いにしないで」などのように親からは言われたりします。たとえ親が怒っても、それでも、たまに話題にしておきたいものです。そういう心の準備は、数年間かけておこなうものだと理解しておいた方がよいでしょう。
老人ホームには、殆どの場合に体験入所があります。活用をお勧めいたします。
入居したけれども「こんなはずではなかった」ということにならないようにしてほしいものです。
そんなことを思いながら、これを書きました。
事例
家族もご本人様も苦労してしまうのは、次の事例です。
・本人様の見当識は曖昧で、ADLは低下し、周囲から見て一人暮らしは明らかに事故発生リスクが高いと判断できる。
・でも、本人様はまだまだ家族の傍で暮らしたいと思っている。
・家族は介護疲れを感じていて、親には老人ホームに入って欲しいと思っている。
・このような場合、家族の意向が優先されて話が進みます。
老人ホームの担当者から笑顔で「大丈夫ですよ。なんとかしましょう」なんて言われたら、家族は藁にもすがる思いで「はい、よろしくお願いします」と返事をして、入居決定となります。
準備の準備
・老人ホーム入居に際して、事前に確認しておく事柄は多々あります。必ず確認をして家族間でも共有しておきましょう。
※真っ先に相談する先は「地域包括センター」です。
老人ホームに関することだけでなく、介護に関する様々な相談にのってくださいます。各自治体にありますので検索してみてくださいませ。
※ネットで老人ホームの入居確認をする場合のワードは「老人ホーム入居時のチェック」などで、多数の参考資料を得ることができます。
※規模の大きい介護会社では、介護や老人ホームに関するQ&Aを小冊子にして配布しているところもあります。直接あたってみて下さいませ。
事例/私の体験
ここでは、私の介護職としての体験をお伝えします。
上記のような事例で、息子さんから以下のような依頼がホームにありました。
「母は私に会いたいと言うと思います。すみませんが、地方に転勤、単身赴任したことにしておいてくれませんか? だから、ここには来れません。妻は仕事をしながら自分の親の世話をしているので、妻も忙しくてここに来れません。しばらくはここで一人で暮らして、早くここでの生活に慣れてほしいと、母には、そう伝えて下さい」
この内容はスタッフ全員が共有し、スタッフ間では ”息子さんは転勤でここにはこれない” ”息子さんのお嫁さんは自分の親の世話で来れない” という「口裏」を合わせました。
スタッフは、方便だと理解するわけですが、嘘は嘘ですから、あまり気分のいいものではありません。
組織で一体となって方便を共有する・・・老人ホームでは、そんなことも、求められるのです。
【参考】
「特別運行列車1番線」は、以下の中にございます。
以下は、作品一覧です:ご一読頂けましたら幸いです。
読んでくださり、ありがとうございます。