介護の詩/「時計の針」/老人ホームでの息遣いと命の灯39/詩境


【車止めで一息】

時計の針

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

怪我や病気で入院。回復して戻って来られる殆どの場合、入院生活の長さに比例してADLは落ちています。事前に書面で見て想像はしていても、現場では辛いですね。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、年老いた人がこの世を去っていく、その様子の中に、様々な人生模様を見る機会を頂いております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

〔口語自由詩〕

車止めで一息38

時計の針

〔入院生活から戻られたあなた様〕

ベッドのあなた様を抱き起こした。

久しぶりだった、

あなた様の介助。

嗚呼・・・

なんて薄く、

なんて弱々しくなってしまったの、

あなた様の上体。

端座位から車椅子へ移乗した。

懐かしかった、

あなた様の介助。

嗚呼・・・

なんて細く、

なんて軽くなってしまったの、

あなた様の身体。

パジャマを脱がせシャツの袖に腕を通した。

寂しくなってしまった、

あなた様の介助。

嗚呼・・・

なんて萎びて、

なんて垂れてしまったの、

くすんで伸びた茶褐色の皮膚。

ホットタオルで顔を拭いてさしあげたら、

しょぼくれた目をパチパチさせたあなた様。

義歯を入れて髪を梳かしてさしあげたけれども、

顔色は乾ききった地面のようなあなた様。

あなた様は、

お日様が何度も昇って何度も沈む間に、

もっと歳をとってしまった。

あなた様は、

お月様が何度も昇って何度も沈む間に、

さらに歳をとってしまった

そして、

ただ、時計の針がクルクル回っていただけなのに、

ついに歳をとってしまった。

洗面所の鏡に映ったあなた様の顔。

あなた様はあなた様を、じーっと見つめ・・か細い声で言った。

「この人、誰?」

・ ・ ・ ・ ・

この人、誰?

嗚呼・・・あなた様は、

頭の中まで歳をとっていた。

こんなはずではなかったのに。

辛くなってしまった、

あなた様の介助。

・ ・ ・ ・ ・

ただ、

心痛く、どんなに憂えてみても、

時の経過は後戻りを拒否する。

時計の針の無味乾燥。

時計の針はまだ回り続けるのだろうか。

〔※端座位:座位の姿勢のひとつ。ベッドの端などに腰かけた状態を指します〕

画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

高齢者のADLが急に落ちてしまうきっかけとして入院があります。

入院の理由ですが、病気の場合・・一番多い癌は ”本人が痛がらなければそのまま看取ってほしい” というご家族様の要望が多く、その場合入院とはなりません。

多くは転倒事故によって骨折し入院する場合です。一度転倒して骨折すると、退院時は車椅子という事例は多いようです。老人ホームでは転倒事故防止のための様々な工夫をしていますが、高齢者の転倒事故を無くすことは無理だと思われます。

この詩での入院は内臓疾患によるもので、入院は三か月に及びました。そして、その間にADLは落ち、認知機能も急に悪化してしまいました。

この作品は、退院後ホームに戻り、私が最初のモーニングケアに入ったときの、この方への私の感慨を言葉にしたものです。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方、各々が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

介護の詩/車止めで一息/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございます。