介護の詩/おじいちゃんの口から「おじいちゃん」2/老人ホームでの息遣いと命の灯15/詩境


【車止めで一息】

おじいちゃんの口から「おじいちゃん」2

老人ホームで暮らしている、お爺ちゃん、お婆ちゃんのこと、気になりませんか? 

おじいちゃんが、おじいちゃんを語ってくれました。安堵の表情は、子供の心に戻っている証だと感じました。

私は、介護士として、老人ホームで働いています。

そして、人々が老いていく様子のその中に、様々な人生模様を見る機会をいただいております。

介護/老人ホーム

私は、そこで見て感じた様々な人生模様を、より多くの人たちに伝えたいと思いました。

なぜなら、「老人ホームではこんなことが起きているんだ」と知ることによって、介護に対する理解が深まり、さらに人生という時間軸への深慮遠謀を深める手助けになるだろうと思ったからです。

それは、おせっかいなことかもしれません。でも、老後の生き方を考える”ヒント”になるかもしれないのです。

伝える方法は、詩という文芸手段を使いました。

詩の形式は、口語自由詩。タイトルは「車止めで一息」です。これは将来的に詩集に編纂する時のタイトルを想定しています。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

高齢者の、老人ホームでの息遣いと命の灯を、ご一読いただければ、幸いでございます。

【車止めで一息】

車止めで一息 15

おじいちゃの口から「おじいちゃん」2

入浴介助の時、

湯舟につかっている貴方様は、

言葉を探し求めながら、ゆっくり話してくれた。

・・・おじいちゃんがね、

私を、船に乗せて、釣りに、連れていってくれました。

海は蒼くて、空も碧くて、とてもきれいでした。

・・・おじいちゃんの船はね、

エンジンが、ポンポンポンって、音を出しながら、進んで行くんです。

波しぶきが、顔にかかってね、夏だったから、気持ちがよかった。

・・・おじいちゃんと一緒に、沖に出るとね、

大きな鯛だって、釣れるんです。

釣りは、おじいちゃんが、教えてくれました。

湯舟に入れた白いタオルで、

顔に噴き出した汗をぬぐう貴方様。

貴方様の顔は今、得意で嬉しそう。

貴方様の顔は今、無邪気な笑顔、子供のよう。

貴方様の顔は今、おじいちゃんなのに、おじいちゃんじゃあない。

その時、貴方様を包み込んでいるバスタブは、

まさに、時空を超える、タイムマシン。

このままずっと、その穏やかな気持ちでいてほしい。

私は、そう願わずにはいられませんでした。

(画像はイメージです/出典:photoAC)

あきら

前回の作品の続きです。

このおじいちゃん、思うように動かない身体を車椅子に乗せ、私の知る限りでは、いつも難しそうな表情をしていらっしゃいました。

そのおじいちゃんが「おじいちゃんがね~」と語り始めたのです。

その時、おじいちゃんの顔はとても穏やかになりました。おじいちゃんは、まるで安堵に包まれた子供のような、無邪気な笑顔を見せてくださったのです。

入浴介助の目的のひとつである「心地よさ」をご提供することができたように感じて、私は介護という仕事への自信を、ひとついただくことができました。

私が介護士として働いている施設は「住宅型介護付有料老人ホーム」です。

自立の方、要支援1~2の方、要介護1~5の方が住まわれており、ターミナルケア(終末期の医療及び介護)も行っている施設です。

【参考】

★【前回公開した詩】 おじいちゃんの口から「おじいちゃん」

介護の詩/おじいちゃんの口から「おじいちゃん」1/老人ホームでの息遣いと命の灯14/詩境

介護の詩/「旅のおわり」/老人ホームでの息遣いと命の灯16/詩境

介護の詩/「車止めで一息」/老人ホームでの息遣いと命の灯

読んでくださり、ありがとうございました。